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DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力③ 第3回 DXの検討に欠かせない「共創」と「顧客視点」
2022年6月24日 12:00

■「よいものをつくれば売れる」時代ではない、「機能よりも体験」の時代へ

 日本企業の過去の成功は、「ものづくりと技術開発」によるものでした。
 日本企業の特徴は、ものづくりが中心で、市場拡大とそれに伴う売上の増加を目標とし、技術の向上や改善を繰り返し、効率的に生産する体制を築いてきたことです。その結果、グローバルでの競争力が増し成功を手に入れました。
 しかし、2000年以降の約20年で、これまで日本が得意としてきた手法(製造・組付けが低付加価値であっても、安く、たくさん製造し、販売すれば儲かる)が、グローバル化の中で低価格化が進み、利益をあげることが難しくなってしまいました。かつての勢いをなくし、グローバルにおける地位は急激に低下し、多くの日本企業が追い詰められました。新しい方向に転換しなければなりませんでしたが、過去の成功体験に縛られて上手くいかず、アメリカのGAFAのような企業も日本では育ちませんでした。
 新しいサービスや製品を市場に投入しても、競合他社にすぐ追いつかれ、コモディティ化していきます。そしてそのスピードは非常に速く、短期間で競争力を失っていきます。

 近年、サービスや製品の機能・性能の差別化は難しくなってきています。
 そのため、徹底的な顧客視点で顧客に体験価値を提供し、顧客を感情的な面で満足させることが求められます。顧客に感情的な面で満足したもらうためには、ビジネスモデルの見直し、業務やシステムの改善、人事評価、組織改革も必要になります。また、顧客体験を提供するには、単独企業では非常に難しく、お互いに協力していくことが必要です。

■DXの検討に欠かせない「共創」と「顧客視点」

 過去のものづくりによる成功体験ではなく、「共創」「顧客視点」による新しい価値の提供を進めていくことが日本企業に求められていることは前述の通りです。
 これからは、社内・社外の連携、パートナーとの共創意識、合意形成など、顧客の価値に立脚した視点でのものづくりを行うことが重要です。顧客あってこそのビジネスになるため、時に顧客と共に創造していくマインドや顧客視点での考え方が欠かせません。

 DX時代の新規事業は、単独企業のみで実現していくことは不可能です。強みを活かしお互いに協力しながら事業活動を進めていく必要があります。
 これまで、日本の多くの企業は自社で全て賄うことを前提として経営を行ってきました。設備、人材、スキルなど、新しいことを始めようとするとき、自社内に必要なものを全てそろえて事業展開を図ってきました。
 しかし、今日のようにサービスや製品がコモディティ化するスピードが速い時代には、企業が行った投資を回収することが非常に難しくなります。
 その中で事業展開を可能にするためには、顧客と創り上げる、自社にない技術や知識は外部に求め、他社や他団体と連携を組みながら、スピード感をもって新しいサービスや製品を創り上げていかなければなりません。そのためには、合意形成を進めるためのスキルも必要になります。

 自社にない技術はアライアンスで他社と連携していくか、場合によってはM&Aで技術やノウハウを買収していくことも戦略として考えなければなりません。
 最近では、日本電産がロボット事業に参入することを決定し、技術・ノウハウはM&Aで自社グループに取り組み、この事業のみで売上1兆円を2030年までに達成するという目標を掲げているという報道もされています。

 また、顧客の嗜好の多様化が進み、個人に対してよりカスタマイズされたものを提供していかなければならず、「顧客視点」でサービスや製品を開発し、展開していくことが重要となります。
 これまでの「作って売る」という、企業から顧客に一方的に提供するものではなく、顧客視点で開発されたサービスや製品を展開していかなければなりません。
「選ぶ・購入する喜び」から「感動」「安心感」など心理的価値が重視されるようになってきており、その顧客体験が新しいマーケティングの大きな課題となっています。
 顧客が他では得られない体験をすることで、顧客はそのサービスや製品を利用し続けています。
 そうした取り組みができるかできないかが、今後の企業存続の分かれ目になります。

■アライアンスとM&A

 アライアンスとM&Aは、DXを推進していく上での重要な戦略になります。
 アライアンスの目的や形態は様々です。
 基本的には、お互いの強みを活かして自社のみでは実現できない事業を展開していくことになります。
 先ほど述べたように、サービスや製品のコモディティ化するスピードが速いため、自社だけではなく、他社・他団体と進めていくことが必要です。
 アライアンスは「資本提携」「業務提携」の総称になります。

 資本提携:企業が相手企業の一定の株式を取得して事業を共同運営していくこと
 注意点としては、企業買収(M&A)ではないので、取得株式は3割未満に抑えます。
 長期的に友好的に関わっていく場合に適しています。

 業務提携:サービスや製品の開発・製造・販売などで協力していくこと。
 業務の全てではなく、開発のみ、製造のみ、販売のみといった提携が一般的。
 資本提携とは違い資本関係がありませんので解消するのも容易で、短期的な関係構築に向いています。
 業務提携の種類は、共同開発や共同販売、技術提携などがあります。

 アライアンスと同時に、近年はM&Aが急速に伸びています。
 M&Aとは、企業の合併・買収のことです。株式譲渡と事業譲渡に大きく分けられます。
 M&Aを実行することによって、DX人材の獲得、DX事業の吸収(新規参入)、シナジー効果などを獲得することができます。
 2021年に日本企業が関わったM&A(合併・買収)件数は前年比15%増の4280件と過去最多になり、デジタルトランスフォーメーション(DX)や脱炭素の加速を目的とする例が目立っています。新型コロナウイルス禍で浮かび上がった供給網の弱さを補うM&Aも重要さを増しています。(2021年12月31日 日本経済新聞社)

 現在のようなめまぐるしく変化する時代の転換期に、企業が新しい取り組みを行っていくために、アライアンスやM&Aは今後さらに増えていくことでしょう。

■顧客体験(CX)の時代

 製品やサービスの価値は、「機能的価値」から「心理的価値」によって差別化を図ることが必要だと言われています。製品自体の機能のみならず品質の面でも差別化が難しくなってきているため、「心理的価値」を高めて、サービス・製品の差別化を図っていくことになります。
 最近では、顧客体験(CX)を重視したマーケティングが重要になってきています。

  CX(カスタマー・エクスペリエンス):
  製品やサービスを購入したり利用したときの機能・性能の物理的価値だけではなく、サポートにおける心理・感情的の経験的な価値を併せて展開する。

 前述の通り、これまでのように企業が単独で価値を提供するのではなく、消費者をいかに巻き込んで魅力的なサービスを展開できるのかが、必要不可欠な要素となってきました。
 SNSなどで顧客との関係を維持しながら、顧客からのフィードバックを製品・サービスに素早く反映させることで競争力が増していきます。
 サービスの提供者と顧客が協力することで、顧客にとってより魅力的なサービスを提供することが可能となります。

 「心理的価値」を向上させるには2つの観点が大切です。

 ① 顧客が不満を感じるものをなくす
 ・手間やストレスをできる限りなくす

 ② 顧客が満足感を得られる体験を増やす
 ・顧客ごとに的確な提案
 ・サプライズで他店では味わえない経験

 この観点を意識して、常に顧客の期待を作り出し続け、顧客の期待を裏切らない結果を創っていかなければなりません。
 顧客は「体験」やブランドを選ぶ傾向のため、顧客体験を定期的に調査して、変更し続けていく努力が必要となります。取り組みに終わりはなく、改善を怠れば、顧客に選ばれなくなります。

  <事例>
 ユニクロ:「UNIQLO IQ」導入で、AIが在庫情報、コーディネートの対応をし、採寸。
 データ送信で注文が完了。受け取りは郵送または店舗。
 スターバックス:モバイルアプリで事前注文及び決済が可能。
 利用履歴によるドリンクのカスタマイズ提案を行う。
 「レジの行列と時間がかかる」という顧客の声を反映し導入。
 状況改善で来店の頻度が向上している。
 メルカリ:商品データをAIと組み合わせ、「AI出品機能」や「写真検索機能」の提供で、顧客体験を向上。
 ベネッセ:タブレット学習の導入で紙からの脱却。
 紙では市場ニーズにこたえられず、導入により利便性向上 

■「共感」が行動を左右する

 消費者は、専門家や企業の情報よりもSNSなどのアドバイスによって行動を起こすようになりました。成功している企業は評価システムを導入し、消費者の嗜好を反映しています。
 UGCが消費や購買行動の意思決定に大きな影響力を持つことが明らかになってきているため、企業はSNSへの投稿を自社のマーケティング活動に活用しています。

 UGC(User Generated Contact:ユーザー生成コンテンツ)
 企業が発信する情報ではなく、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSに消費者自身によって投稿された情報のこと。

 経済は、当分の間UGCの影響を受けると言われています。
「共感の輪」が広がりやすく、調査結果でも専門家や権威者の意見よりも、UGCの方が信頼されています。
 SNS情報の重要性が高まっていることで、SNS情報を重要視する企業はますます増えていくことでしょう。

■まとめ

 DXを実現するためには、さまざまな技術やノウハウが必要になりますが、必ずしも自社で全てを賄う必要はありません。顧客と新しい価値を追求し、その実現には他社や他団体と協力をしながら創り上げていくことが求められます。
 「顧客視点」でどのようなサービスや製品を展開していくのか。そして、それはどのように実現していくのか。企業の置かれた状況によりどのように判断するのかは変わりますが、従来のやり方ではなく、過去の成功体験から脱却し、新しいアプローチで取り組んでいくことが必要です。
 その試行錯誤こそが、今後の日本企業の「DX」を成功させ、グローバルで大きく遅れている状況からの巻き返しに繋がるのではないかと考えています。

 現在、特に中小企業でのDXが進んでいません。資金的に取り組めない、推進していける人材が不足している、費用対効果でそもそも儲かるのかが疑問など、取り組まない理由はいくつもあります。
 総務省が行ったDXへの取り組みの調査(2021年)によると、中小企業の約7割が「実施していないし、今後も予定がない」と回答をしています。大企業(約4割実施)と比較しても遅れが目立っています。
 「DX」とは、単なる「デジタル化」ではなく、デジタル技術を活用して企業を「変革」していくことです。「デジタル化」が目的ではなく、企業を大きく「変革」し、効率を上げて最適化していくことを目指すことです。
 DXが進んでいかないのは、DXを単なる「デジタル化」と捉えている方々が非常に多いことが要因としてあります。それがこの総務省の調査結果にも表れているのではないでしょうか。
 「DX」は本当に取り組まなくてもよいのか。取り組むとしてもどのように取り組んでいかなければならないのか。DXの意味を正確に捉えて、その上で企業が将来を見据えて実施していかなければならないと考えます。

 残されている時間はごくわずかです。完全に破壊される前に新しい道筋をつけることができるのか。一気に意識を変えることは難しいですが、これまで多くの難局を切り抜けてきた日本人ならば成し遂げられるのではないかと信じています。

スキルアップ
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筆者紹介

大石 光宏(おおいし みつひろ)
事業再生・承継、M&A、DX推進で多くの企業価値向上に貢献。IT企業のエグゼグティブアドバイザー就任や、行財政改革、都市計画など、自治体の審議会委員を複数務めるなど幅広く活躍。近年は特に、持続可能な企業にする為のDX(IoT・AI)ビジネス推進に力を入れ、総合的な企業支援を行う。
中小企業の事業承継にはDXの取り組みが必須である。単なるIT化ではなく、ビジネスモデルを見直し、新しい考え方を取り入れた事業運営を試みることが重要で、その支援には評価を得ている。
M&S Innovation Consulting 代表。
主な著書
「図解即戦力 IoTのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書IoT検定パワーユーザー対応版」(共著:技術評論社)

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