持続可能なITについて考えてみた

第2回  これからのITに求められる「持続性」とは何か、も考えてみた

概要

ご利用部門の要望に、早く、正確に、低コストで対応してきたIT部門。「DX」で全社の注目を浴びる一方で、日々の業務は、既存アプリケーションの保守や、戦略変更や改善要望などによるアプリ修正・追加、HW・SW・サービスのサポート終了に伴うアプリやインフラの移行、セキュリティ対策やPTF適用など、多様かつ正確さが求められて、とても大変です。 既存業務をこなしながら、DXに取り組み続けることができる、IT部門になるためには、どうすればよいのか。 さらには、ESGの文脈でも、持続可能なITが求められる時代がやってきました。 そんな時代に、IT部門はどう対処していくべきなのか、考えてみました。

前回は、ITの各レイヤー視点で、維持管理のための費用やワークロードを最小化することで、ITの持続性の向上を果たせるのではとお話しいたしましたが、これからのIT部門には、より大きな視点での持続性の追求が求められます。その点について、今回は考えてみたいと思います。今回も、当ブログの掲載内容はわたくし自身の見解であり、必ずしもIBMの立場、戦略、意見を代表するものではないことを、初めにお断りしておきます。

ご承知の通り、各企業には、人類が地球上で持続可能となるために貢献できる存在であるか、が求められる時代になりました。
わたくしが今から15年前、2006年にドイツを旅した時のことです。ドイツ鉄道の切符をオンライン購入しようとすると、通常の運賃以外に、10%くらい割高な運賃も併せて表示されて、どちらかを選ぶように画面で指示されました。この割高な運賃で切符を購入した人数分の輸送に必要な電力を、ドイツ鉄道は再生エネルギーで購入するということのようでした。当時も今も、日本では再生エネルギー利用の鉄道運賃というものは存在しませんが、いよいよ国内でも、再生エネルギー発電による電気を積極的にマーケティングしている小売電気事業者が出てきました。消費者市場における重要な第一歩だと思います。
企業のデータセンターにおける再生エネルギーの使用促進や、データセンター全体のカーボンフットプリント削減が要請されるようになるのも、そう遠くない未来です。生産設備や輸送機械といった、二酸化炭素排出量が相対的に多いセグメントとあわせて、データセンターにまで脱炭素が求められることに疑問を持たれるかもしれませんが、すでに時期を区切ってのカーボンニュートラル達成をサプライヤーに求める企業も現れており、ビジネス視点でも、IT部門の脱炭素ロードマップの作成が重要になってきているのです。

さて、視野を再生エネルギーやカーボンニュートラルから、企業が求められるESG (環境・社会・企業統治)に広げて、IT部門にどのような行動が要請されるのか、考えてみました。

企業は利益を追求する存在ですが、強欲に利益のみを追求するのではなく、人類の、宇宙船地球号の、一員として、持続可能な未来を実現するための行動を求められるようになりました。それを長期にわたり遂行するための視点として、ESGが存在します。投資先として、購買先として、就職先として、ESG視点で優れた企業であるか否かが、新たに選別のクライテリアとなりました。つまり、企業はESG視点で優れていないと持続可能な存在として認められなくなるのです。
ESGに対応していくことは企業としてとても大きな作業です。IT部門は、自部門の、ないし自社のITの持続可能性を考えるだけでなく、自社全体の持続可能性の担保を支援していく存在になります。これからのITに求められる持続性とは、自社の持続性と一体になるわけです。すばらしいチャレンジの旅が始まります。
では、E、S、G、それぞれの視点でIT部門が、ならびにITが、でき得ることを考えていきます。

目次
1) Environment 環境
2) Social 社会
3) Governance 企業統治

1) Environment 環境

気候変動、公害、生物種の多様性の維持、天然資源の取り扱い。これら環境と結びつく課題に対処するために、まずはデータセンター全体でのエネルギー消費の削減や脱炭素化が頭に浮かびます。また通常の電力に比べて単価の高い再生エネルギーを購入しながらもコスト・ニュートラルを達成するという視点でも、データセンター全体でのエネルギー消費そのものを削減する必要があります。
データセンターの省エネルギーのためには、データセンターの空調設備の冷却効率を上げる、電力単位あたりの処理性能の高いIT機器を使用する、サーバー仮想化技術などによりアプリケーションをより少数のIT機器で稼働させる、アプリケーションアーキテクチャーを見直して、より少ないリソースでデータ処理を行う、そもそも活用度の低いアプリケーションはそれ自体の稼働を中止する、などいくつもの視点があります。
冷却効率を上げるために、寒冷地のデータセンター利用、水冷設備の利用、データセンターの建物自体のデザイン、フロアのラック設置や空調設備の工夫など、数多くの方法が試されています。
電力単位当たりの処理性能も、CPUの微細化技術や命令セットの整備、半導体設計自体の変更などで効率が改善しています。
IBMが開発している、Powerプロセッサーも、世代毎にエネルギー効率を向上させています。最新プロセッサーでは前世代に比べて、33%もエネルギー消費量を削減しました (ご参考: https://www.ibm.com/blogs/systems/jp-ja/announcing-ibm-power-e1080-engineered-for-agility/)。
サーバー仮想化技術も進化しています。前述のIBM Powerプロセッサーのようにプロセッサー自体にサーバー仮想化技術を組み込むものもあれば、他方サーバー仮想化ソフトウェアやコンテナ化ソフトウェアでサーバー統合を実現する方法もあります。
アプリケーションレベルで、例えばセッション数がスケールアウトしても、ひとつのアプリケーション空間をなるべく共有することでメモリー使用量の削減 (=搭載物理メモリー容量の削減) と可能とするようなアプリケーション実装方法を考慮するのもよいでしょう。
定期的に作成されるレポート類の使用状況をモニターして、長期間全く使われていない、かつコンプライアンスガイドライン上も保管が不要であれば、そもそもそのレポート作成のための定期ジョブを停止することも選択肢となります。
IT部門はさらに、社員のリモート勤務のためのインフラやイネーブルメントをサポートすることで、移動に伴う炭素排出量を削減できるのではないでしょうか。

 

2) Social 社会

人権、ダイバーシティ (人材の多様性) とインクルージョン (相互に個性を認め合って協働を推進) 、健康と安全、社会的インパクトについて、企業は今まで以上に厳しい目で世間からみられるようになってきました。企業トップから取引先・投資家などステークホルダーへのメッセージ、社是、ミッションステートメントなどの内容だけでなく、実際の企業風土や行動が問われています。
IT部門は、デジタルツールを使った企業内のコミュニケーション促進によって、ダイバーシティやインクルージョンに寄与できます。また、データ分析基盤によって、多様な発想の取り込みを支援することができます。
ワークフローなどのデジタル化やリモートワークによって、働き方改革を進めて、社員ひとりひとりがより生産的に業務に取り組めて残業を削減し、ワークライフバランスやメンタルヘルスの向上に貢献できます。現場部門だけでなく、IT部門自身も大いに恩恵を受けることができます。
さらにAIの活用により、問い合わせ業務そのものを自動化したり、検品業務を高度化しつつ省力化したり、需要予測の精度を高めて要員配置の最適化を進めることも可能になりました。
IT部門では、ローコードやノーコードといったアプリケーションの開発生産性の高いツールや、アプリの見える化やアプリ変更管理のためのツールを導入することにより、IT部門ならではの効率アップが可能です。自動監視・自動運用ツールの進化も見逃せません。
社会的インパクト・マネジメントにおいても、企業内データの全てを統括しているIT部門がリードすべき作業領域は多いはずです。

 

3) Governance 企業統治

組織構成、リスク管理、適法且つ公正なビジネス、企業倫理など、企業が誠実、真摯、高潔に業務を遂行する視点も重要です。例えばIBMは社員一人一人が遵守すべき行動基準 (https://www.ibm.com/ibm/jp/ja/bcg.html) を設けるだけでなく、その内容を公開しています。このような行動基準は実際にトップから現場まで全員が実行して初めて魂が入ります。IT部門は、内部統制のためのシステムや、デジタルセキュリティを通じて、企業統治にも貢献できます。
内部統制には、プラクティス、プロセスの整備とそれらをサポートするアプリケーションが両輪として必要です。国内外で発生する様々な粉飾決算や偽装事件を受けて、法令や官公庁のガイドラインもより厳しくなっています。多くの企業が内部統制の継続的な強化に取り組まれていることと存じます。これからはステークホルダーへの説明責任を果たすための従来型の内部統制だけでなく、ESGのE: 環境と、S: 社会の視点でも、説明責任を果たすことが求められますので、新たな仕組みづくりが求められるでしょう。
デジタルセキュリティも、社外からの攻撃だけでなく、社内における論理的・物理的な攻撃や情報漏洩にも対処する必要があります。
社外からの攻撃でまず想起されるのがランサムウェアです。報道によると、ランサムウェアで攻撃を仕掛ける組織は、分業体制であり、またワークフローや企業ごとの身代金の金額設定などのシステムが高度に洗練されていると言われています。昔のような「イタズラ」のハッキングではなく、スキルの極めて高いプロフェッショナルによる不法ビジネスですので、攻撃を防御できなかったときのインパクトも大きくなります。
IBMには、X-Forceというサイバーセキュリティの専門集団がいて、各社のセキュリティ対策を支援しています。また、IBMが開発・提供している、IBM Z、IBM Powerといったエンタープライズ・サーバーは、ハードウェアにも極めて高いレベルのセキュリティ機能を実装し、それらの上で稼働するハイパーバイザー (z/VM、PowerVM) やOS (z/OS、AIX、IBM i) と垂直統合することにより、岩盤のようなセキュリティを提供しています。米国政府が提供する脆弱性報告サイト (https://nvd.nist.gov/) を検索いただくと、他社のサーバーOSやハイパーバイザーに比べて、重大な脆弱性の少なさをご理解いただけると思います。

 

いかがでしょうか。少し考えて文を綴っただけでも、いろいろなアイデアが浮かびました。IT部門は、主体的にESGに関わっていくべきです。それは組織の保全ではなく、自社の、そして、人類、宇宙船地球号の保全につながるのです。ワクワクしますね。
機会があれば、わたくし久野も、みなさまとESGとITの関わり合いについて、議論を重ねて、よりよい未来に貢献できる存在になりたいと望んでいます。
最後まで当ブログをお読みいただきありがとうございました!
みなさまのご健勝とご職務の成功と、未来の人類の更なる繁栄を祈念して、筆をおきます。

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筆者紹介

久野 朗(くの あきら)
1979年 BASICやアセンブラのプログラミングのアルバイトを始める。
1983年 IT企業の設立に参画。オフコン、PC、家庭用コンピューター向けのアプリケーション開発を担当。
1987年 IBM入社。新規開拓営業とアジア太平洋地区スタッフを経験した後、マーケティング、インサイドセールス、ハードウェアセールスの各部門でマネジメントを担当。その後 IBM Power製品の日本地区責任者を経て、現在はIBM i カスタマーサクセスアドバイザーならびにIBM Powerの首都圏地区パートナー協業営業担当。
Twitter: @Ak_Kuno
LinkedIn: akira-kuno

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