システム管理者が知って得するDX推進に役立つIoT・AIの技術と運用②

第2回 身近なIoTデバイスのセンサー

 IoT社会において多種多様なデータを収集し分析することではじき出された結果から課題解決をすることが望まれています。そのデータを収集するためのデバイスとして、身近においておく個人を特定できる、また携帯しているものとしてスマートフォンは重要な機器の一つです。例としてスマートフォンでは照度センサーや輝度センサーとも呼ばれる環境光センサーを内蔵することで表示画面の明るさを自動調節することも当たり前になった。
 それ以外にもIoTでは、温度センサー、湿度センサー、圧力センサー、光センサー、磁気センサー、超音波センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー、生体センサーなどが用いられる。
 コンピュータはデジタルの2進数で動いている。それに対し、明るさや温度などはデジタルでも2進数でもない。それらは、照度や温度などの物理量と呼ばれるもので、これを電気的に測定するために測定する素子が必要になる。それがセンサーである。センサーが測定した物理量をデジタルの2進数に変換することでコンピュータは処理している。
 本コラムでは、具体的な測定を例にして、その物理現象をどのように電気信号に変換し、さらにそれをコンピュータが処理できる信号にするのかを解説する。さらに、画面の照明などに用いられるLEDの明るさ調整をどのように行っているのか説明する。

目次
温度を測るセンサー
デバイスをコントロールする制御装置
電圧をデジタル値に変換する
明るさを測る光センサーでLEDの明るさを調節する
パルスオキシメーターでコロナ対応
加速度センサーで歩数計
最後に

温度を測るセンサー

 温度センサーには温度によって抵抗値が変化する素子を用いている。その代表的なものにサーミスタがある。右図のように温度センサーと抵抗を直列につないで3Vなどの電源に接続すると温度によって温度センサーの抵抗値が変化するために、出力電圧が変化する。
 サーミスタには温度が上がると抵抗値が小さくなるものや、大きくなるものなどの種類があり、小さくなるものがよく用いられる。例えば右図のような変化をするサーミスタを用いたとすると、出力電圧は温度と直線的な関係にはならない。そのため出力電圧と温度の対応表を用いるなどの工夫が行われる。

       

 

デバイスをコントロールする制御装置

 温度センサーからの出力電圧をコンピュータで処理をする仕組みについて説明するために、まず、基本的なコンピュータの構成を説明する。
 温度センサーで温度制御を行うような機器には一般にMCU (Micro Control Unit)と呼ばれる制御装置が用いられる。SoC (System on Chip) やマイクロコントローラなどとも呼ばれているMCUは“頭脳”を司る部品である。それは、コンピュータの処理の中心であるCPU (Central Processing Unit:中央処理装置)にメモリ、周辺回路などを一体にした半導体である。このMCUに温度センサーなどの回路が接続される。スイッチやLEDなどの入力回路や出力回路もMCUに接続される。
 次図のMCUは、CPUとメモリであるROMやRAMだけでなく、内蔵されたI/O (Input/Output)やADC (Analog Digital Converter)などの周辺回路を表している。そしてMCUのデジタルの入力出力端子にはスイッチやLEDの回路が接続され、アナログ入力端子には温度センサーの回路が接続される。

 

電圧をデジタル値に変換する

 温度センサーからは電圧がMCUに入力される。この電圧をコンピュータが処理できるデジタル値に変換するためにADコンバータ(ADC)と呼ばれる回路がMCUに内蔵されている。内蔵されていないMCUなら、外部にADCを用意する。
 温度や明るさ、圧力などを測定するセンサーの多くは抵抗値が変化する素子なので、図のような回路構成で電圧としてその変化を取り出し、ADCで2進数のデジタル値に変換している。
 電圧は連続的に変化するアナログ量であるが、コンピュータが処理する2進数は数値で、連続的には変化しない離散値である。この連続量から離散値に変換するデバイスがADCである。ADCでは、入力したアナログ電圧をある基準となる電圧 (量子化単位電圧) の整数倍に切り捨てることでアナログ量を数値に変換している。
 針式のアナログ電圧計は針の位置で電圧を表している。人はその針の位置を読んで数字にしている。これと同じことをADCが行っている。digitalとは“数字”を意味する。針の位置を読んで数字にすれば、それはデジタル値である。

 

明るさを測る光センサーでLEDの明るさを調節する

 明るさを測定する光センサーには明暗で抵抗値が変化するCdsセルが安価で人の目に似た特性を持つのでよく用いられる。精度や感度の高い測定にはフォトダイオードやフォトトランジスタなどの半導体が用いられる。これらはLED(発光ダイオード)と同じ原理である。
 LEDは電流を流すと光るが、これとは逆に光の量に応じて電流が流れる素子がフォトダイオードやフォトトランジスタである。この関係は、モータと発電機の関係に似ている。電気を流すと回転するモータは、外から力を加えて回転させれば発電が可能である。
 フォトトランジスタとLEDを用いて、暗くなるに応じて徐々に明るく点灯する制御ができる。外部が暗いときはLEDに電流を多く流し、明るければ少しだけ電流を流す。電流を流す量を制御するためにPWD (pulse width modulation:パルス幅変調) が用いられる。デジタル出力端子を用いて、電流が流れるOnと流れないOffの時間の割合を変化させることで電流の大小を調整する。
 On/Offを高速に繰り返せば人の目に点滅は分らない。

 

パルスオキシメーターでコロナ対応

 光で血中酸素飽和濃度を測定するセンサーにパルスオキシメーターがある。コロナ対応で重症化の検知を行う有効なツールとして注目されている。
 パルスオキシメーターはLEDの光を指先に当て、動脈からの反射光をフォトトランジスタで測定することで血中の酸素の濃度を測定するセンサーである。
 赤色・赤外の2種類の光を利用すると血中酸素飽和度が測定できる。肺から取り込まれた酸素はヘモグロビンと結合して全身に運ばれる。酸素結合の有無で血液の色が変わり,光の吸収特性が異なるので2つの波長を用いて酸素と結合しているヘモグロビンの割合を測定する。
 パルスオキシメーターはコニカミノルタが1977年に世界に先駆けて開発した。指先に挟むだけで血中酸素飽和濃度を測定することができる。

   

https://www.konicaminolta.com/jp-ja/newsroom/topics/2020/0424-01-01.html

 

加速度センサーで歩数計

 加速度センサーは,物体の移動に伴う速度の変化を検出する。内部にバネで支持された微細な重りと測定回路を持つ。重りは加速度によって位置がずれるので,そのずれを測定する。X軸,Y軸,Z軸の3軸を検出できるセンサーなら重力の方向が検出できる。
 3軸加速度センサーにより、スマホの姿勢検出(縦か横か)や、揺れを検出することで歩数計が実現できる。

 

最後に

 いうまでもなく、デバイスとセンサーの仕組みはIoT社会を牽引するキーテクノロジーであり、システム企画、システム管理においても今後はこれらの要素技術への理解促進も今後の重要テーマだと思います。
 今回はややテクニカルな内容となっておりますが、IoTをより多角的に捉えていただくうえでデバイスとセンサーの基礎技術をシステム管理者の皆様に少しでも触れていただければ
幸いです。

 

IoT検定は、特定の技術領域に偏ることなく様々な要素を網羅し、総合力を有するIoT技術人材の育成と普及を目指しております。
http://www.iotcert.org/

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筆者紹介

末石 吾朗(すえいし ごろう)
東京電機大学非常勤講師。精密機械メーカのエンジニアから専門学校の講師になり、情報処理関連の教育に従事。
C言語や組み込みシステム、IoTの教科書、情報処理試験対策などの著作を行う。

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