概要
企業運営を中枢から担うコーポレート部門の方々にとって身近なテーマである「インナーコミュニケーション」。企業の内外に巻き起こるマクロの変化の渦とDX、そのなかに生じる企業と従業員の関係性のうねりを、時代・トレンド・価値観などの比較を通じて、小気味よく分かりやすい言葉でまとめていくコラムです。
最近、「インナーコミュニケーションが大事だ」と言われる場面が増えました。
リモートワーク。価値観の多様化。働き方改革。理由はいろいろ挙げられます。
インナーコミュニケーションは、従業員エンゲージメント向上や理念浸透、離職防止の文脈で語られることが多いテーマです。それらはいずれも間違いではありません。
でも、少し立ち止まって考えてみると、
本当の理由は、もっと身近なところにあります。
マネージャが、あまりにも大変になっている。
それが、いま多くの職場で起きていることです。
- 目次
- 第1章:増え続けるマネージャの負担
- 第2章:マネージャを支える仕組み インナーコミュニケーション
- 第3章:マネージャと現場組織を機能させるインナーコミュニケーションの機能分担と仕組み化
- おわりに
第1章:増え続けるマネージャの負担
■昔よりずっと難しいマネージャの仕事
以前と比べると、職場の前提は大きく変わりました。
• ハラスメントは絶対に許されない
• コンプライアンスは最優先
• 多様性(DE&I)への配慮が必要
• 人材育成も、人事評価も、説明責任が求められる
どれも大切なことですし、どれも、時代に合った正しさです。
日頃の業務を確実にこなすことで実績をあげてきた方が順当にマネージャに昇格していくのが職場の常です。以前のマネージャの役割は、その任務遂行や成果へのコミットメントでしたが、今はそう単純ではありません。時代とともに「組織が回る状態」を維持するための業務はどんどん増える一方です。しかしながら、日本企業の実情としてマネージャとして組織作りの研修や訓練もそぞろに、現場責任者になったその日から「マネージャの判断と気遣いに委ねられている」という現実が多くあるようです。
■「ちゃんとやらなきゃ」と、積み重なっていく負担
ある日マネージャになると、それまで深く考えてこなかった一つひとつの言動に迷いと戸惑いが待っています。
• この言い方で、大丈夫だろうか
• 誰かを傷つけていないだろうか
• 評価に偏りはないだろうか
• 会社の考えとズレていないだろうか
マネージャは、日々こんなことと戦いながら業務に臨むことになります。
正解が分からないまま、慎重に、慎重に、言葉を選ぶ。ご自身がその立場になってみた場合を想像するだけでも大変ですが、当然、マネージャにとって一人で背負いきれないほどのストレスが降りかかって来ます。
マネージャが感じている多くの負担は判断軸が共有されていない構造そのものから生まれているのです。
第2章:マネージャを支える仕組み インナーコミュニケーション
マネージャに組織が回る状態作りを委ねるということは、見方を変えると、会社は組織を回すためにマネージャに依存しているということに他なりません。つまり、組織をあげて、マネージャを支えること。これは現場組織を支えることと同義に捉えられるほど重要なものであるということではないでしょうか。
そのために必要なのが、インナーコミュニケーションです。
• 会社は、何を大切にするのか
• 組織として、どこまではOKで、どこからがNGなのか
• 業務上迷ったとき、何を軸に判断すればいいのか
• マネージャが任務に集中できる環境作りのため、会社の方針を広く周知すること
こうした「組織マネジメントとしての土台」を、会社から広く明確に発信し続けることが大切なのです。
さらには、その応用編として、より多くの従業員からの共感を呼ぶ配信をしていくことが効果的です。価値観や判断軸が広く組織内に浸透できれば、マネージャは判断と気遣いから解放されていくのです。
インナーコミュニケーションが弱いと、マネージャの説明は「個人の意見」に見えてしまいますが、それでは、インナーコミュニケーションが機能したらどうなるのでしょうか?
マネージャの言葉が、組織の言葉になるのです。
背景や方針が共有されていれば、
• 「会社として、こう考えている」
• 「この評価には、こういう意図がある」
と、マネージャは安心して話せる。マネージャの存在感と理解に基づく判断は説得力を帯び、自然と増幅されます。つまり、インナーコミュニケーションには「マネージャの言葉を、強くする」力があるのです。
そして、もう一つ。
マネージャの仕事を、少し楽にすること。
• 同じ説明を何度もする
• 一つずつ誤解を解く
• 空気を読みながら、言葉を選ぶ
これら余計な仕事から距離を置くことができるのです。ただでさえ限られた時間のなかで、業務量も膨大で、重要な決断が求められる任務を遂行する。本来業務に集中できるだけでも、マネージャの仕事が少し楽になるのです。
インナーコミュニケーションを機能させると、
• 共通理解が先につくられる
• 話は、より深いところから始められる
マネージャは、「説明する人」から「課題に向き合う人」というポジションに戻れます。
問題の原因は、マネージャの努力不足でないことは明らかです。
いま、大事なのは「仕組み」化によって組織を支えるマネージャを支援すること
いまインナーコミュニケーションが重視されるのは、時代が変わったからです。
• 正しさが増えました
• 配慮が必要になりました
• 求められる役割も増えました
だからこそ、
それをマネージャ個人の頑張りに頼らない。
会社組織としてマネージャを支える。
この仕組みを機能させることが、インナーコミュニケーションなのです。
第3章:マネージャと現場組織を機能させるインナーコミュニケーションの機能分担と仕組み化
これまで見てきたとおり、マネージャを支えることはインナーコミュニケーションの重要な効果です。マネージャを支えることでもたらされると、マネージャとともに働く従業員が働きやすくなるのです。
それでは、次にマネージャと現場組織を機能させるインナーコミュニケーションの仕組み化に迫ってみましょう。
会社組織内での機能分担をざっくり言うならば、こうなります。
① 経営 :方針・価値観を示す
② コーポレート部門 :具体化して発信する
③ マネージャ :現場組織で指揮をとる
④ 従業員 :共感する、実践者となり、共鳴する (≒ 現場での発現者となる)
①経営の役割 ― 方針を打ち出し、価値観を示す
経営の仕事は、現場を直接マネジメントすることではありません。
インナーコミュニケーションにおける経営の役割は、シンプルです。
• どこを目指すのか (ミッション・ビジョン)
• 何を大切にして、何を変えたいのか(守ること、変革すること)
• 判断に迷ったとき、何を軸にしてほしいのか(価値観)
つまり、正解ではなく、判断基準を示すこと
これを言葉にしないと、その空白はすべてマネージャが埋めることになります。
経営が沈黙すると、現場組織の士気は落ち、「察する」しかなくなります。
②コーポレート部門の役割 ― 組織浸透のために具体化して発信する
コーポレート部門は、従業員を管理するのが仕事ではありませんし、ルールや制度を作る機能だけではありません。経営の打ち出す方針・価値観を、現場組織で使える形に翻訳することがミッションです。
インナーコミュニケーション上の役割は:
• 評価・育成・コンプライアンスの考え方を整理する
• グレーな部分を放置しない
• マネージャが困ったときの拠り所を用意する
• そして、これらを分かりやすく発信する
たとえば、
• 「このケースではどう考えるか」
• 「これはやってはいけないライン」
• 「迷ったら、ここに相談していい」
• 「皆が迷わないように、広く周知する」
コーポレート部門は、現場組織が同じ判断軸を基に、安心して業務遂行ができる環境を整備し、維持しているのです。転じて、現場組織を預かるマネージャの“安全網”を張る役割を担っているのです。
③ マネージャの役割 ― 現場組織を機能させ、日々の業務に落とし込む
マネージャは、経営が打ち出した方針・価値観に基づき、コーポレート部門が整えた具体的なメッセージを充分に理解し、現場組織を機能させ、日々の業務に落とし込む役割を担います。
マネージャのインナーコミュニケーションにおける責任は、
• 現場組織に浸透させる
• 組織内の従業員と対話する
• 組織内の状況を見て、必要な調整をする
マネージャは現場組織を機能させる役割が最も重要です。現場組織が健全に機能している状態は、業務遂行に多くの時間とエネルギーが割ける環境を整えてこそ成立するのです。
そして最後に、マネージャの元で、従業員は部門の持つミッションに迷いなくまい進する。組織方針に共感しながら実践し、そして組織方針に向かって組織の掲げる価値観の発現者になる。インナーコミュニケーションが会社組織内の循環器として仕組み化され機能しているといえるのではないでしょうか。
おわりに
インナーコミュニケーションは、社内広報にも、情報共有にも留まりません。
ましてや、従業員エンゲージメント向上や理念浸透、離職防止の文脈だけの問題でもないのです。
会社組織を機能させるために、現場組織を支えている重要な役割を担う ―
マネージャを強くする土台
マネージャを守る仕組み
そして何より、
マネージャを機能させ、会社組織を循環させるためのシステム
だから、いまこそインナーコミュニケーションを見直す風潮が生まれてきているのです。
連載一覧
筆者紹介
略歴:千葉大学法経学部経済学科卒業後、商社の航空宇宙事業の営業職を経て大手プラントエンジニアリング会社に転職。
国内・海外営業を担ったのちに、2016~2022 同社 広報・IR部において、機関投資家向けIR、社内外広報、企業風土改革組織のマネージメント職として、経営陣の投資家説明資料企画・策定、統合報告書製作、インナーコミュニケーションを統括。
2022~ 株式会社コミュニティオ コーポレートコミュニケーションジェネラルマネージャー(現職)

一介の営業マンが晴天の霹靂でプラントエンジニアリング会社(現東証プライム上場)の広報・IR責任者となる。急速なDX浸透、働き方改革、エンゲージメント施策…、劇的な変化のなか、全く経験のない広報・IRのミッションに対峙する。営業とマーケティングの視点からの仮説を立てながら徒手空拳で挑んだ経験を糧に、読み手にとって易しいコラムを目指します。当時、世の潮流を得るための社外交流を契機に、スタートアップとの共同ソリューション開発に参画。自社を検証フィールドとして活用することでサービス開発を加速させ、職場の半径5mの人間関係が組織力を強くする『TeamSticker』 のSaaSサービスの実現に至る。その後も、Teamsにありそうでなかった一斉配信機能を実現する 『NewCommunicator』 の開発の端緒に繋げる。現在は、当時ソリューション共同開発先であった株式会社コミュニティオにおいて、営業活動とコーポレートコミュニケーションに従事。趣味は、海釣り、マラソン、水泳、サッカー、温泉。パン職人の実弟と共に西葛西でパン屋 Pan de Momoを経営する。
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