とある情報システム部員の、成長日記

第1回 引越しのトラブル、それはテーマパーク

概要

情報システム担当者は、最初から幅広くIT知識を有している方はごく一部になると思います。業務を遂行する過程で必然的に知識が必要になったり、経験から得た知識というものがあったりすると思います。一つの会社だけではなく、色々な会社を経験した体験談や考え方などをご紹介させていただきます。また、情報システムの面白いところや困りごとといった個人的な感想など情報システムメンバー目線で語ります。

目次
トラブルは突然に
調査開始
原因特定
今後のために
今回の学び

トラブルは突然に

「Nさん、ネットが繋がらないそうです・・・」。申しわけなさそうな表情で、総務の小池君(仮)が私の席に報告に来た。
「ネットワークが繋がらない?3階かな?」「はい、本社の3階です。他の階や〇×ビルからは、繋がらないという話は聞いていないので、3階だけだと思います」
「なるほど。では、直しに行きますか・・・」
私と小池君は、用意してあった、マスキングテープ、ペン、スケール、などを持って3階へ向かう。トラブルは覚悟していた。今日は3階の引越しなのだ。

さて、読んでいるみなさんは、何の事だかわからないだろう。この会社は、上期、下期で組織替えがあり、それに合わせて自社ビルのレイアウト替えや近くのビルへの引っ越しがある。その引越しは、基本的に「自分達」で行う文化だ。
その際、ハブの電源を落としたままにしたり、LANケーブルを抜いたままにしたり、はては、ケーブル配線を間違えてネットワークをループさせたりする。その結果、「ネットワークが繋がらない!」と私のところに助けを求めに来る。
この会社のネットワークはなかなか酷く、トラブル対応の度に「なんだ?この配線は?」とがっかりする事が多い。とはいえ、がっかりしてもトラブルは直ってくれない。「こんな配線になってたのか?いやいや、すごい状況がわかって良かったな!」などと喜ぶくらいでないと、やっていられない。
「これからテーマパークに行くぞ!」的に気分に盛り上げるわけだ。

当時の私は、情シスとは別の部署に所属しており、情報システムの刷新に携わっていた。最近で言えば「DX推進室」のような部署だ。報告に来た小池君に聞いてみる
「情シスの増田さん(仮)は?」
「帰りました」
情シスは、こういった事態を予想して先に帰ったらしい。対応は明日で良い、といった考えだろう。

3階に着くと、いかにもレイアウト変更中、といった様子で、机が移動され、荷物も散乱していた。
3階は営業部門のフロアで、机の島が4つある。その2つがレイアウト替え中、といった様子だ。営業2部の面々が困った表情だったので、ネットワークのトラブルは営業2部だろう。状況を聞いてみる。
「繋がらないのはどこですか?」
「営業2部はほぼ繋がらないんですけど、山田君(仮)だけ繋がってます。あと、なぜか営業3部の鈴木部長(仮)も繋がらないみたいです。営業3部の他のパソコンは繋がるんですけど・・・」
営業アシスタントの森下さん(仮)は、状況を把握していた。助かる。しかし、繋がらない状況が中途半端だな・・・
「森下さん、今日の仕事は?」
「終わってます。明日、朝から仕事できるように、片付けていたところです。」
「ありがとう。明日の朝までには繋がるようにするよ。」

鈴木部長にも聞いてみる。
「鈴木部長、営業3部は鈴木部長だけ繋がらないのですか?」
「そうなんだよ。営業3部で俺だけ繋がらない。うちの部署、何にもしてないんだけどね・・・他のみんなは繋がっていたので、先に帰したよ。」
「それは申しわけありません。この後のお仕事は?」
「メールだけ見て帰ろうと思ったけど、明日で大丈夫。急ぎの案件は終わらせてあるからね。」
「承知しました。明日までには繋がるようにしますので。」

 

調査開始

みな、急ぎの業務はない様子。これで、トラブル対応の時間は確保できた事になる。トラブル対応は、重大なトラブルほど、冷静に対応しなければならないものだ。焦って動いてもろくな事にならない。
さて、営業2部の山田君のPCと帰宅した営業3部のPCが繋がっているという事は、このフロアのネットワークは生きている。ネットワークは生きているが「なんか遅いんですけど・・・」といった状態だとやっかいだ。今回はそうではないので原因を絞り込める。どこかのハブが死んでいて(電源が落ちている、LANケーブルが外れている)という事だろう。トラブルは、むやみに対応しても時間がかかる。ネットワークの構成と特性を念頭に、トラブル原因の仮説をたて、確認していくのが早い。
今回は、「ハブが落ちているのでは?」という仮説で配線のチェックを始める。このビルは5階建ての自社ビル。Wi-Fiは、とある事情で撤去してあるので、ネットワークは有線LANのみ。LANケーブルをチェックすれば良い。
机の島のハブを探す。営業2部の机の島に16ポートのスイッチングハブがあった。電源は入っており、森下さんのPCと繋がっているLANケーブルはリンクアップしている。営業2部のPCは、ほぼこのハブから配線している。いわゆる「島ハブ」方式だ。という事は、このハブの配下は正常で、上位にあるハブが落ちているのだろう。
なぜか繋がっている山田君のPCのLANケーブルを追いかける。山田君のPCは営業2部の島ハブには繋がっていなかった。LANケーブルはフリアク下をどこかに伸びているので、他の生きているハブに繋がっているのだろう。「島ハブ方式なら、営業2部のハブから配線してくれよ・・・」とつぶやくが、この状態がわかった事を喜ぶ事にする。

次に、鈴木部長のPCからLANケーブルを追いかける。これも、フリアクの下へ伸びている。伸びている方向は、トラブル中の営業2部だ。「小池君、営業2部のハブの近くのケーブルが動くかどうか、見ていてね」小池君にハブの観察を任せ、鈴木部長のPCのLANケーブルを引っぱってみる。動かない。「小池君、そっちで動いたケーブルはあったかな?」と聞いてみるが「何も動かないですよー!」との返事。

このフロアのフリアクは高さが低く、フリアクの中でどんな配線をしているかわからない。ケーブルがまったく動かない場合は、無理に引っ張るのは危険だ。とはいえ、鈴木部長のPCは、営業2部のハブからわざわざ引き回しているのは間違いないだろう。「小池君、ハブのランプ、1個消えるはずだから、見ていて」。鈴木部長のPCのLANケーブルを抜く。
「どのランプが消えた?」「えーと、7番ポートが消えたみたいですが・・・」
「じゃあ今度は、消えた7番ポートのランプが点くか見ていて。LANケーブル刺すから」「あっ、7番ポート、ランプ点きました」
これで、鈴木部長の原因は確定した。営業2部の島ハブから営業3部の鈴木部長のPCへわざわざLANケーブルを引いている。
「島ハブ方式なら、営業2部の島ハブではなく、営業3部の島のハブから配線してくれ・・・」と落ち込むが、この状態がわかった事を喜ぼう。ここはテーマパークなのだ。楽しまないと・・・。

 

原因特定

さて、あとは、上位のハブの場所と、その状況の確認だ。さきほどから、営業1部が静かだ。というか、営業1部は誰もいない・・・
「森下さん、営業1部は?」
「帰りました。飲みに行くそうです。」
「そうですか。ありがとう。」
人事異動が発表された夕方、みな、レイアウト替えまでは行うが、そのあとは様々だ。営業2部のように、しっかり片付けて明日の仕事に備える部署。営業1部のように、新しい仲間と早くコミュニケーションをとるため、飲みに行ってしまう部署。いろいろある。営業1部のような部署は、明日、朝早くに出勤して始業までに荷物の整理を行う。それは良いのだが、私が出社するのを待ち構えて「ネットが繋がらないんだ!Nさん来てよ!」というパターンは勘弁して欲しい。良くあるのだ・・・
さて、そんな営業1部は誰もいないので、自由に調査できる。まだ整理されていない営業1部の机と荷物をかき分けて、ハブを探す。あった。ハブの電源ケーブルが抜けており、電源が落ちている。これが原因だろう。
ハブの電源を入れる前に確認だ。小池君に「営業2部のハブのランプ、どれかが点くから見ていて」とお願いして、営業1部のハブの電源を入れる。「3番ポートが点きましたよ」とのこと。「3番ポートか、ありがとう。じゃ、ランプが点いた3番ポートのLANケーブルを抜いてくれるかな」「抜きました!」。営業1部のハブは、7番ポートのランプが消えた。もう一回刺してもらうと、7番のランプが点く。これで、営業1部のハブの7番ポートと、営業2部のハブの3番ポートがカスケードで繋がっている事が確認できた。この配線では、他のハブのトラブルで、正常なハブも道連れになって通信断 になる。今回はその状況だ。
こういったカスケード接続は避けたいものだが、上位のハブから下位のハブにカスケードする場合、下位のハブの何番ポートに繋ぐか、その方針を決めておくと、トラブルの際に確認する事が減るので多少楽になる。私は、1番ポートに繋ぐ派だ。
「森下さん、パソコンで通信確認してもらえますか?」
「あっ、繋がりました!」
「鈴木部長、どうですか?」
「繋がった!ありがとう」

さて、原因もわかったので、ケーブルを整理したいところだが、小池君の表情が暗い。
「Nさん、新しい内線番号表、配りに行って良いですかね?・・・」
「そうか、ごめんね。手伝ってくれてありがとう」
人事異動や引越しがあると、内線番号が変わる。人事は、それに合わせて内線番号簿を更新し、各部に配っているのだ。グループウェアがあれば、そんな手間も不要だが、この会社にグループウェアはない。グループウェアも導入しなければ・・・。

 

今後のために

さて、一人でできる事だけやって引き上げる事にしよう。
営業1部と営業2部を繋いでいるLANケーブルには、ケーブルの両端にそれがわかるメモをマスキングテープで書いて貼っておく。長いケーブルには、「どこから、どこへ」と書いたメモをケーブル両端に貼っておくと良い。LANケーブルを追いかけるのが格段に楽になる。
「営業1部ハブ⇔営業2部ハブ」と書いたものを2個作り、ケーブルの両端に貼った。ビニールテープで貼るのは止めた方が良い。すぐに粘着部分がベトベトになって、LANケーブルごと捨てたくなる。「まあ、貼りかえるから良いか・・・」などと考えて貼ると、数年後にべとべとのケーブルをさばきながら、自分を呪う事になるので、テプラできちんとメモを作るか、せいぜいマスキングテープが良い。マスキングテープもべたつくが、ビニールテープほどではない。
ケーブル両端に合番号(同じ番号)を書いておくのもよくやる方法だ。しかし、このビルではダメだ。同じ番号を書いたケーブルを複数発見している。ケーブルに書いてある合番号を頼りにケーブルを追いかけると、混乱して間違える。番号でお茶を濁す事はせず、確実な文言をマスキングテープに書いて張る。
鈴木部長のケーブルにも貼った。山田君のケーブルは、ケーブル配線を変えて営業2部のハブから繋ぎ変えたいところだが、ちょうど良い長さのLANケーブルがない。「接続先不明」と書いて貼っておく。
最後に、このフロアのケーブル配線図を書いておく。わかった分だけで良い、手書きでも良い、配線図を書いておくと、数か月後にトラブル対応している自分が今日の自分に感謝してくれるのだ。
今日はここまでにして、内線番号簿を配っている小池君を手伝ってあげよう。確か、全部の電話機に1台1台、新しい内線番号の表を貼っているんだよなあ・・・。

今回の学び

いかがだったろう?ありがちなネットワークのトラブルなので、この程度であればみなさんは楽勝ではないだろうか?しかし、お伝えしたかったのはそこではない。しっかり準備してあれば、今回行った調査の部分は、ほぼやらなくて良い。原因の仮説まで一気に進める。そのポイントは、以下の2点だ。
・ケーブル配線図の作成
・ゾーンワイヤリング

ケーブル配線図は、絶対に作成した方が良い。遠方に拠点があり、そこのネットワーク管理もやっているなら尚更だ。ネットワークの特性を理解していれば、トラブル状況を聞き、ケーブル配線図と照らし合わせれば、ハブの電源が落ちているといったトラブルはすぐにわかる。
遠方の拠点でネットワークのトラブルがあり、ケーブル配線がわからないと、とにかく時間がかかる。こちらは状況を確認して早く復旧させたいだけなのだが、現場はわかり切った事を聞かれるため、「困った」から「イライラ」に状態がすぐに切り替わってしまう。ケーブル配線図を見ながら電話で状況確認すれば、切り分けは早い。そのうえで、「おかしいな・・・」と思ったら、自分を信じて現場に行って対応すれば良い。「NICが壊れてエラーパケットをまき散らしていた」といった、まれにしか出会えないトラブルが待っていてくれたりする。

ゾーンワイヤリングは、一定のルールでネットワークを分割するやり方だ。機材やケーブルの適用範囲を限定する、と考えても良い。例えば、ビルのネットワークであれば、各階毎にスイッチを配置し、その階は必ずそのスイッチから配線する。机の島ごとにハブを置き、その島のPCは必ずそのハブから配線する、といった具合だ。トラブルの際、圧倒的にわかりやすくなる。
今回の例でも、営業1部、営業2部が、それぞれ3階用のハブから直接配線していれば、繋がらないのは営業1部だけだったはずである。ケーブル配線図を見ながら営業1部だけが繋がらない状況を聞けば、営業1部のハブの停止が原因であろうという仮説はすぐだ。3階のネットワークが全て繋がらなくなっており、他の階のネットワークが正常、といった状況でも、3階用のスイッチに何かあったのでは?とすぐに仮説が立てられる。

ネットワークは、適当に構築しても動いてしまうが、こういった事をきちんと考えて構築したネットワークは、運用管理、トラブル対応の際にわかりやすく、対応も早い。LANケーブルは、一度引いてしまうと10年くらいそのままだ。適当に配線すると、「こうしておけば良かった・・・」と10年間後悔を引きずる事になりかねない。
ケーブル配線図、ゾーンワイヤリング、ちょっとした工夫だが、トラブル対応が終わって一息ついた時にでも、今回の話を思い出して、作成、改善に着手していただければ幸いである。

 

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筆者紹介

西川敏博
1969年8月生まれ

製造業(メーカー)の新米プログラマーとして業務をスタート。装置制御のプログラムを作るセンスはなかったため、社内の業務アプリやメーカーが製造した製品の製品情報管理システム(PDM)の作成といった業務へシフト。
Internetの商用利用開始とともに、JUNETからの切替作業を任される。四苦八苦しながら作業した事で、Internetとネットワーク技術のすばらしさに目覚める。
全国に工場、拠点を持っているメーカーであったため、平行して、全国の工場のネットワーク構築や、それら工場と国内、海外の拠点を接続したネットワーク(100拠点ほど)の構築と管理を平行して実施。
ネットワーク管理は、「ちょっと知的な肉体労働」である事を学ぶ。
その後、何度か転職し、現在も情報システム部門で勤務中。

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