DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力㊳

第38回 AI エージェントはもう隣にいる!未来をデザインするDXリーダーの「5つの新常識」

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

目次
はじめに:もう、「AIは遠い未来」ではない
2025 年-2026 年:AIエージェントが変えるビジネスの風景
未来をデザインするDXリーダーの「5つの新常識」
新常識1:AIリテラシーと「AIとの対話力」
新常識2:本質を見抜く「目的設定・課題発見力」
新常識3:人間とAIの「共創・協調マネジメント力」
新常識4:変化を歓迎する「学習加速力」
新常識5:未来を描く「倫理観とビジョナリーリーダーシップ」
結びに:未来は、私たちが「デザイン」するもの

はじめに:もう、「AIは遠い未来」ではない

テクノロジーの進化は日進月歩、とよく言われますが、ここ数年の生成 AI の進化速度は、まさに「光の速さ」と表現しても過言ではありません。ChatGPTをはじめとする生成AIが、私たちのビジネスや日常生活に驚くべきスピードで浸透し、今や「AI エージェント」という、さらに自律的で高度な働きをする存在が、もう私たちの「隣」にまでやってきています。
未来のDXを牽引するリーダーの皆さま、そしてこれからリーダーを目指す皆さまは、この激変の時代に何を学び、何を身につけるべきでしょうか?
今回は、2025年、そしてその先の2026年に向けて、AIエージェントが企業経営にもたらす変化を洞察しつつ、DXリーダーとして「未来をデザイン」するために不可欠な「5つの新常識」について、やさしく、具体的な視点でお話しします。

 

2025 年-2026 年:AIエージェントが変えるビジネスの風景

私たちが目の当たりにしているAIの進化は、単なる「便利なツール」の域を超え始めています。かつての生成AIは、私たちの指示通りにテキストや画像を生成する「アシスタント」
でした。しかし、今や「AIエージェント」と呼ばれる存在は、私たち人間が与えた「目的」を理解し、自ら最適な計画を立て、情報を収集し、ツールを使いこなし、そして目的達成のために必要な行動を「自律的」に実行しようとします。
これは何を意味するのでしょうか?
2026 年には、これまで人間が担っていた定型業務の多くが、AIエージェントによって効率化されるでしょう。例えば、データ分析、レポート作成、メールの選別、スケジュール調整、顧客サポートの一次対応など、多岐にわたる業務がAIエージェントに任されるようになります。個人の生産性は飛躍的に向上し、企業全体の業務効率も劇的に改善されることが期待されます。
しかし、その波は穏やかなだけではありません。アメリカのテック業界では、AI 導入による業務効率化を背景とした大規模な人員削減が現実となっています。これは、AI が「より
付加価値の高い仕事」にリソースを集中させるための、企業側の戦略的な選択であり、同時に、人間の仕事が再定義される必要性を示唆しています。単なるコスト削減ではなく、競争力強化と持続的な成長に向けた企業の覚悟の現れとも言えるでしょう。
そして同時に、AIエージェントはさらに進化し、単体で働くのではなく、複数のAIエージェントが連携し、より複雑なプロジェクトやタスクを協調して遂行するようになるでしょう。例えば、市場調査から新製品の企画立案、マーケティング戦略の策定まで、一連のプロセスをAIエージェント群が自律的に実行し、人間は最終的な意思決定や、より創造的な部分に集中する、そんな風景が当たり前になるかもしれません。
この時代において、企業経営は従来のトップダウン型、あるいは部署間の壁に隔てられた組織運営では立ち行かなくなります。AIエージェントをいかに組織に組み込み、人間とAIが「共創」する新たなワークフローをデザインするかが、企業の存続と成長を左右する最重要課題となるのです。
では、この激流の時代において、DXリーダーとして未来をデザインし、組織を導くために必要な「新常識」とは何でしょうか?

 

未来をデザインするDXリーダーの「5つの新常識」 

DXリーダーには、単なるIT技術の知識を超えた、未来を見据える洞察力と、組織を動かす人間力、そしてAIと共創する新しい視点が求められます。 

 

新常識1:AIリテラシーと「AIとの対話力」

かつては「パソコンリテラシー」が求められましたが、これからは「AI リテラシー」が必須です。AI の仕組みを深く理解する必要はありませんが、「AI が何を得意とし、何が苦手なのか」「どのようなタスクを任せられるのか」「どのように指示すれば最大の効果を発揮するのか」を肌感覚で理解していることが重要です。
特にAIエージェントに対しては、単に「質問する」だけでなく、「目的を明確に伝え、必要な情報を与え、行動を促し、結果を評価し、次に活かす」という一連の「対話力」が求められます。これは、まるで優秀な部下やパートナーに仕事を依頼するようなものです。AI の可能性を最大限に引き出すプロンプトエンジニアリングは、この「対話力」の基礎と言えるでしょう。常に最新のAIツールに触れ、試行錯誤を繰り返す好奇心と実践力が、この新常識を身につける第一歩です。

 

新常識2:本質を見抜く「目的設定・課題発見力」

AI エージェントは、与えられた目的を達成するために動きます。裏を返せば、人間が明確な目的を与えなければ、AIは最高のパフォーマンスを発揮できません。これからのDXリーダーには、複雑な状況の中から「真の課題」を見つけ出し、AI 活用によって解決すべき「本質的な目的」を言語化する力が不可欠です。
AI が膨大なデータを分析し、瞬時に答えを導き出す時代だからこそ、その答えが本当に解決すべき課題に紐付いているのか、あるいは、より高次の目的達成に貢献するのかを見極める「人間の知性」が問われます。AI の力を借りて、表面的な課題ではなく、組織の成長や顧客価値に直結する深層の課題を発見し、明確な目標設定ができるリーダーが、未来を切り開くでしょう。

 

新常識3:人間とAIの「共創・協調マネジメント力」

AI エージェントが普及すればするほど、組織運営は「人間だけ」のマネジメントから「人間とAIエージェント」を統合した「共創・協調マネジメント」へとシフトします。DXリーダーは、AI を単なる道具としてではなく、チームの一員、あるいはパートナーとして捉え、人間とAIそれぞれの強みを最大限に活かせるような役割分担とワークフローを設計する必要があります。
AI に任せるべきタスク、人間が集中すべき創造的・戦略的なタスクを見極め、それぞれのパフォーマンスが最大化されるよう「オーケストラの指揮者」のように全体を統括する能力が求められます。また、AI を恐れることなく、積極的に活用できるような組織文化を醸成し、チームメンバーがAIとの共創を楽しめる環境を作ることも、リーダーの大切な役割です。

 

新常識4:変化を歓迎する「学習加速力」 

生成AIの進化スピードは、私たちの予測を常に上回ってきます。昨日有効だった情報やスキルが、明日には古くなっている可能性も十分にあります。この変化の激しい時代を生き抜くためには、リーダー自身が常に学び続け、新しい知識や技術を積極的に吸収し、自己を更新していく「学習加速力」が不可欠です。
そして、その学習のスピードを個人に留めず、組織全体へと波及させることも重要です。新しいAIツールや手法を迅速に試し、失敗を恐れずにトライ&エラーを繰り返すアジャイルな姿勢を組織全体に浸透させることで、企業全体の「学習速度」を向上させ、常に最先端を走り続けることができるでしょう。変化を恐れるのではなく、変化そのものを成長の機会と捉える力が、これからのリーダーには求められます。

 

新常識5:未来を描く「倫理観とビジョナリーリーダーシップ」

AI の力が強大になればなるほど、その利用には高い倫理観が求められます。AI の公平性、透明性、セキュリティ、プライバシー保護といった側面を常に意識し、責任あるAI活用を推進する姿勢は、DX リーダーにとって絶対的な新常識です。アメリカの人員削減問題も、短期的な効率化だけでなく、長期的な視点での従業員への再教育や新たな機会提供など、倫理的な配慮が重要となります。
そして何よりも、AI がもたらす未来社会で、自社がどのような価値を提供し、どのように社会に貢献していくのかという「明確なビジョン」を持つことが、DX リーダーの最後の、そして最も重要な新常識です。ただAIを導入するだけでなく、その先にどんな未来を描き、従業員や顧客、社会全体をどのように導いていくのか。そのビジョンを力強く語り、周囲を巻き込みながら未来への道を指し示す「ビジョナリーリーダーシップ」こそが、AI エージェント時代における真の羅針盤となるでしょう。

 

結びに:未来は、私たちが「デザイン」するもの 

AI エージェントは、決して私たち人間の仕事を奪うだけの存在ではありません。それは、私たちがより創造的で、より価値のある仕事に集中できるよう、強力にサポートしてくれる「未来をデザインするためのパートナー」です。
この激動の時代において、DXリーダーは、AIエージェントの可能性を最大限に引き出し、組織の潜在能力を解き放つキーパーソンとなります。今回ご紹介した「5つの新常識」を日々の業務に落とし込み、未来を恐れるのではなく、自らの手でデザインしていく。そんな前向きな姿勢こそが、ユニリタコラムが提唱するDXリーダーの姿です。
未来は、すでに「ここ」にあります。そして、その未来をどうデザインするかは、私たち一人ひとりの、そしてDXリーダーの皆さんの手に委ねられています。さあ、AIエージェントと共に、ワクワクするような未来を共に創造していきましょう!

連載一覧

コメント

筆者紹介

大石 光宏(おおいし みつひろ)
M&S Innovation Consulting代表。

事業再生・承継、M&A、DX推進で多くの企業価値向上に貢献。IT企業のエグゼグティブアドバイザー就任や、行財政改革、都市計画など、自治体の審議会委員を複数務めるなど幅広く活躍。近年は特に、持続可能な企業にする為のDX(IoT・AI)ビジネス推進に力を入れ、総合的な企業支援を行う。
中小企業の事業承継にはDXの取り組みが必須である。単なるIT化ではなく、ビジネスモデルを見直し、新しい考え方を取り入れた事業運営を試みることが重要で、その支援には評価を得ている。

【主な著書】
「図解即戦力 IoTのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書IoT検定パワーユーザー対応版」
(共著:技術評論社)

バックナンバー