DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力⑲

第19回 費用対効果を最大化するポイントは楽しむこと?

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

「ITの導入は手段であって目的ではない」、手段の目的化を戒める話は、IT業界に限らずによく聞く話だと思います。DXを実現していく上で、IT導入やIT化が手段の一つとして必要になりますが、手段と目的を混同せずに目的にあった手段の検討が必要になります。

手段を検討する場合、例えばどんな機能があるか?、自社の業務に合うのか?、維持運用は出来るのか?、導入費用はいくらか?、スケジュールはどうか?など、様々な観点で比較検討を行います。

その中でも重要なポイントに「費用対効果」があります。上層部や経営層が特に気にするポイントになりますが、手段として導入したITによって、どの程度の効果が得られるのかを検討する必要があります。
DXリーダーとしては目的にあった適切な手段を選択し、IT投資に対する効果を見極め、費用対効果を最大化していくための取り組みを検討することも求められます。

DXリーダーとして、どのようにすれば費用対効果が上がるのか、効果を最大化するために何が必要かを、考えていきたいと思います。

 

目次
費用対効果とは?
効果を最大化するには?
変化は嫌なもの?楽しいもの?
まとめ/最後に

費用対効果とは?

まずは言葉の定義から見ていきます。
費用対効果は文字通り、かけた費用に対してどの程度の効果があったかを表した指標で、計算式では「費用対効果=効果÷費用」となります。わかりやすい例では、売上向上のために100万円の広告費をかけて、300万円の売上が上がったとすると、費用対効果は3倍になります。

計算式としては「生産性=産出(アウトプット)÷投入(インプット)」と考え方が同じで、かかった費用/投入(インプット)に対して、どれだけ効率的に効果/産出(アウトプット)が得られたかを測る指標になります。計算式としてはとても単純なのですが、効果、費用とそれぞれの対象範囲を決めていく時には、注意が必要となります。

先ほどの、広告費(費用)をかけて売上(効果)を狙う例では比較的わかりやすいですが、DXを実現していく手段としてのITの場合、もう少し複雑になります。
例えば「費用」の面では、ITを導入して終わりではなく、その後に必要となる教育、保守、運用、廃棄などにも費用が必要になります。また「効果」の面では、ITは導入しただけで効果が得られるではなく、その手段をどれだけ利活用できているかによって効果が大きく変わってきますし、場合によっては数値に現れない効果が生みだされることもあります。

ITの導入から廃棄までにかかる総コストのことを、TCO(Total Cost of Ownership)と呼びます。最近では、クラウドやSaasなどの月額でサービス利用料を払うケースが増えているため、導入にかかる初期費用よりも、ランニングコストの割合が大きくなる傾向があり、TCOを意識して費用を考える必要があります。

費用対効果を考えた場合、無駄な費用を抑えることはもちろん必要ですが、下げることができる幅には限界がありますので、費用対効果を上げるためには効果の面を最大化する観点が重要となります。最近のITは出来ることが増えてきている傾向なので、よりその機能や性能を存分に利活用ことが求められてきています。

 

効果を最大化するには?

効果を最大化させるために、ITの導入後にユーザーが利活用してくれることが必要になりますが、まずは自社の目的や課題解決に合うITを適切に選択する必要があります。
よくITは何でも解決してくれる魔法の杖のように期待されることがありますが、現実は完璧な手段はなく、出来ること/出来ないことをしっかりと理解して、導入を検討する必要があります。

例えばAIがニュースで話題になり、実際の活用例なども出てくるようになった頃、AIはなんでも出来て思うとおりに完璧な答えをすぐに返してくれるんでしょ、、、といった話を聞くこともありました。こうなると、手段の力を見誤ってしまい、思ったような効果を得ることは難しくなってしまいます。

適切なツールの選択ができれば、あとはユーザーに活用してもらうことが一番の近道になります。ITを導入するだけでは何も変わりませんので、ユーザーの利活用が進むように、ユーザーマニュアルの整備や、利用に向けた説明会や教育の実施が多いと思います。

ITを導入すると今までの手段とも変わりますし、業務の流れが変わることもあります。ここで注意が必要なのは、現在の業務より効率すると説明し、理解を求めたとしても「言っていることはわかるけど、、、」と、なかなか動きを変えてくれないことがあります。

頭では現状より良くなるとわかっていても変化を避けてしまうことを「現状維持バイアス」と言い、変革(トランスフォーメーション)を求めるDXの実現には大きな壁となります。
この「現状維持バイアス」は、変化をすることで起こるかもしれないデメリットを回避したいという気持ちや、過去の成功体験に縛られて変化を受け入れられないなど、心理的な原因から起きます。

心理的な話なので完璧な対策は無いと思いますが、打破するためのステップとしては、①「現状維持バイアス」に陥っていることを認知する、②現状維持では損失が大きいことを客観視する、③小さいことから始めてみる、この3点が有効だと考えます。

 

変化は嫌なもの?楽しいもの?

打破するために一歩目は、まずは①「現状維持バイアス」に陥っていることを認知することが必要です。変化を避けている状態が、客観的に見て合理性があるのかを見極め、現状維持バイアスに陥っているのかどうかを判断していきます。

次に、IT導入の場合では、変化によるメリットを説明して理解してもらうことが多いと思います。しかし、世の中の変化はまずます早くなってきていますので、②現状維持では損失が大きいことを客観視して、現状維持は変化に置いていかれて生き残りが難しくなり、もはや衰退を意味するほどにリスクがあることを、ユーザーと共有することが有効です

最後に、現状維持のリスクがわかって動き出そうとしても、いきなり大きく変化をさせることは大変です。まずは③小さいことから始めていくことが大事になります。
例えばITの利活用の第一歩は、まずは触ってみることがと思います。例えそれが業務に直結していないような使い方や、時に遊びのようなものだとしても、触っている中で慣れていく過程を経て、実際の業務につなげていくことができます。

DXリーダーの立場では、できれば最短距離で利活用を進めたい気持ちが強いと思いますが、この小さな一歩が上手くいくかどうかで、この後に大きな差になって返ってきます。

DXを推進していく中では、変化に対応できるように変革(トランスフォーメーション)することが必要になりますが、出来れば変化を嫌々受け入れるのでなく、変化を楽しんで対応できるようになると、とても強い組織になります。

言うは易しではありますが、例えば新しいITの導入をきっかけに、社内発表会を実施した会社があります。ここでは、利活用の社内事例を共有して、ノウハウの共有と部門間のコミュニケーションを活性化させています。併せて、部門間で楽しく競える工夫を行っていて、社内掲示板で効果の経過を公表しながら楽しく利活用を進めています。

とてもうまく組織文化を変革(トランスフォーメーション)出来た例だと思いますし、当初想定していた以上の活用方法が出てくるなど、効果の面では文句なしの結果を収められています。

 

まとめ/最後に

DXリーダーは、DXを実現していく上で必要になる投資に対して、かかる費用と得られる効果を天秤にかけながら、費用対効果を検討してことが求められます。それは導入時に必要な費用だけではなく、また机上での計算上の効果だけでもありません。

効果を最大化するために、時には遊びの要素も入れながら楽しく変化に対応できるよう、工夫をすることも必要になります。ただその効果は、生産性や費用対効果の数値的な意味だけでなく、ユーザーが楽しんで活動できるように変革(トランスフォーメーション)
したことなども、とても大きな価値をもたらします。

今後も時代やITの進化は終わることは無いですし、その時代に合わせて変化に対応することが求められます。そんな変化を従業員とともに楽しんで進んでいける企業が、DXを通じて少しでも多くなることを願っています。

 

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筆者紹介

田代 博之(たしろ ひろゆき)

商社、SIerなどで営業のキャリアを積みながら、製造業を中心としたITやIoTの導入に関わる。現在では中小企業に向け、多様な営業経験を活かした事業拡大、営業力強化、WEB活用を中心に活動中。ミャンマーでのオフショア開発やビジネスプロセスアウトソーシング事業も支援中。アクシアパートナー代表。
主な著書(いずれも共著)
IoT しくみと技術がしっかりわかる教科書」 技術評論社

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