エンジニアが綴る、AIとの不器用な共存

高齢IT技術者が思う生成AIのこと

概要

この物語は、筆者(IT技術者歴40数年)とAIの対談という形式を取っています。自分とAIの位置関係を探るために企画しました。 インタビューアはAI、インタビュイーは筆者となります。 本テーマについて様々な局面を生成AIと討議し、そのエッセンスを読者が読みやすいように対談形式でまとめたものであり、討議では筆者が日本語文法も含め雑な質問をしていたものを、AIが読みやすい文体に修正したものです。
生成AIには多くの利点がある一方、実務で使うには無視できないリスクも存在します。特に深刻なのは、AIが突然それまでの文脈を忘れる、回答の途中でハングする、指示していた文体・記述ルールがいつの間にか消えるといった挙動です。本コラムの作成中に何度もこれに見舞われ、スクリーンをコピーしてローカルのwordに貼っていなければすべて消失していました。これは ChatGPT、Gemini、Grok など複数のサービスで共通して起きるため、特定のAI固有の問題ではなく、現在の生成AI技術そのものが抱える構造的な不安定さと考えるべきでしょう。モデルが内部で扱う情報量の大きさ、会話の長さによる負荷、推論プロセスのブラックボックス特性などが、こうした“揺らぎ”を生むのでしょう。無料版か有料版かに関わらず、完全な安定性はまだ期待できません。したがって、重要な判断や精密な作業を丸ごと任せることは現状では危険であり、AIを信用しすぎず、常に人間側がチェックする姿勢が不可欠です。
このAIとの対話のスタイルや内容が、読者の方々が生成AIを利用する際に参考になれば幸いです。

目次
【第1章】IT技術者としての40数年と、AI時代への最初の違和感
【第2章】目的と制約が決まると業務は姿を現す
【第3章】AIの得意・不得意を正しく捉える
【第4章】「業務理解」とは、頭の中に地図を描くこと
【第5章】現場で学ぶということ
【第6章】AIが“地図の外”で迷子になる瞬間
【第7章】AIが示す誤解と、「手触りの違和感」
【第8章】これからの若い技術者に伝えたい“しなやかさ”
【第9章】AIが示す“最短経路”の扱い方
【第10章】AIを使いこなす人と、AIに振り回される人
【最終章】AI時代を歩くための“地図”との向き合い方
◆ エピローグ

【第1章】IT技術者としての40数年と、AI時代への最初の違和感

導入:長いキャリアで感じる「評価の揺れ」

AI: 今日はどんな話題から始めましょうか。

筆者: 最近は、色々な場所で「生成AIを使う」という方針を打ち出していますよね。 その流れ自体は自然なのですが、しっかりしたAIノウハウがある企業や教育機関は別として、導入にあたって、どうしても気になる点があるんです。今日はそこについて話したい。

AI: 気になる点、というと?

筆者: いまの日本社会では、AIを導入する前提となる 「役割の整理」や「スキルの見立て」が曖昧なまま、“結論だけ”を求めてAIを使い始めているように見えるんです。 このアプローチで本当に大丈夫なのか……と。

生成AIの扱われ方が、かつての「プログラマー大量誕生」と重なる

筆者: 私が新人だったころ、アセンブラやPL/I、レガシーCのプログラマーが一気に増えた時代がありました。 企業の生産性が上がり、開発工程も体系化されていく転換期でしたね。 でも、その裏側には見えない問いが常につきまとっていました。

  • 開発者のマインドセットはどうあるべきか
  • 技術者の信念と現実のギャップをどう埋めるか
  • 作ったものは利用者にとって本当に有益だったのか
  • チーム開発が多い中でどこまでが自分の責任なのか
  • 技術を扱う倫理観をどう身につけるか

時間外勤務は珍しくありませんでしたが、私は「これが学べるなら」と時間外だろうと前向きに取り組んでいました。 現在では許されない働き方であることは承知しています。ただ、当時はインターネットもなく、技術を学ぶためのドキュメントや専門書は職場にあるものが中心。 学ぶ場所そのものが職場にしかなかった──そんな時代だったのです。 普通なら2年かけて覚える内容を1年で吸収できたのは、環境は厳しくても、自分にとっては財産でした。

AI: 表に出ない努力が必要だった時代、ということですね。

筆者: そうですね。 ただその数年後には様子が変わり、発注量が膨大になって「とにかく作る」ことが最優先になっていきました。 本来あるべき役割分担や目的の確認は、後回しになってしまった。 そして今日、AI導入の動きを見ていると、あの時期と似た空気を感じるんです。 人の役割も、AIの位置づけも曖昧なまま、“結果だけ”を求めて動き始めている感覚があるんです。

■ AIを使う前に必要な「環境」と「責任」の整理

AI: 確かに、AIを使うには“どんな環境を整えるか”“どこから人が判断するか”といった整理が欠かせませんね。

筆者: そうなんです。 AIそのものより、“AIを使い始める前の整理”ができていないことのほうが気がかりなんですよ。

 

【第2章】目的と制約が決まると業務は姿を現す

業務が「難しく見える」本当の理由

AI: 前章では、AI導入以前の『役割の整理』や『目的の確認』が曖昧だと懸念されていました。その整理を深く掘り下げると、業務そのものの理解、つまり「何をもって業務とするか」の把握が鍵になるのでしょうか。

筆者: そこです。 技術そのものは手順化されているので、学べば習得できます。 ただ、“業務としてのIT”は、目的・制約・責任の組み合わせで形づくられています。 ここが見えていないと、技術をいくら知っていても全体像が掴みにくい。

技術はツールでしかない。変わらないのは「利用者を見る力」

筆者: 開発言語の習得、DBのチューニング、ネットワーク機器の設定方法…… これらはすべて仕事を進めるためのツールです。 技術者の仕事は、そのツールを利用者の業務が本来の形で動きやすいように“整えること”にあります。

  • 利用者がどんな作業をしているのか
  • どの工程で時間を費やしているのか
  • どこに不安やリスクがあるのか

こうした“仕事ぶり”を正しく見極める力は、時代が変わっても本質的に変わりません。

AI: AIもツールという点では同じですね。

筆者: そうです。AIは便利ですが、進歩が速くツールとしての価値も変わっていく。 だからこそ、変わるツールより、変わらない“利用者を見る力”のほうが重要なんです。

業務は「目的 × 制約 × 責任」で成立する

筆者: 目的が明確になると、必要な情報、優先順位、判断軸がそろいます。逆に曖昧だと、どんな技術でも噛み合わない。 制約には、法律、予算、時間、リソース、文化まであります。制約を理解すると、選択肢が一気に整理される。 そして最後は責任です。 目的・制約・責任の三つが揃うと、業務は“運用可能な形”になります。

AI: AIに依頼する時でも、この三つがないと結果が揺れますね。

筆者: そうなんです。 AI導入の前に、この三つを言語化しておく必要があるんですよ。

 

【第3章】AIの得意・不得意を正しく捉える

「AIに聞けば出てくる」は、本当に答えなのか

筆者: AIが登場してから、「とりあえずAIに聞く」という行動が一般化しました。 確かにAIは早くて便利ですが、AIは“答えを知っている”わけではありません

AI: 膨大なデータの傾向を踏まえて“もっともらしい形にまとめているだけですね。

筆者: そう。 だから、AIは傾向には強いけれど、根拠には弱い

  • 事実関係の断定
  • 契約や規約の解釈
  • 利用者の状況判断
  • 現場の背景の読み取り

こうした領域はAIは苦手です。 なのに、AIは確定的に言い切る文章をしれっと返してくることがあり、厳しくチェックせざるを得ない。

「AIが言っているから正しい」という錯覚

筆者: ここで危険なのは、“判断したつもりになる”ことです。 AIが返した答えは素材であって、判断そのものではありません。

AI: 素材をどう読み解くかが技術者の役割、ということですね。

筆者: その通りです。 AIを疑うことはAIを否定することではありません。 むしろ、正しく使うために必要な姿勢なんです。

 

【第4章】「業務理解」とは、頭の中に地図を描くこと

業務が持つ“構造”は、最初は見えない

AI: 第1〜3章を通じて、業務とは「目的 × 制約 × 責任」で形作られるということが分かりました。では、この業務の「輪郭」や「構造」は、IT技術者の頭の中でどのように可視化されていくのでしょうか。

筆者: そうですね。 業務というのは、最初からはっきり見えるものではありません。 情報が断片的だったり、人によって説明が違ったり、歴史的な事情で例外が積み重なっていたり……。 その“見えないもの”をどう扱うか。 そこで私はよく地図という比喩を使います。

業務を理解するとは、「地図を描く」ことに近い

筆者: 地図づくりは、ただ場所を書き写すだけではありません。 どの線を残すか、どの要素を捨てるか、意味をどう整理するか──。 現実を“扱える構造”に落とし込む作業なんです。 業務理解も同じで、だいたい以下のプロセスを行ったり来たりします。

  1. 考える ── 何が重要か、境界やグレーゾーンがどこかを見極める
  2. 仮定する ── 「この業務はこう流れるはずだ」と線を引いてみる
  3. 結果を照らし合わせる ── 実際の運用と整合しているか確かめる

AI: 地図が「だんだん輪郭を持っていく」プロセスですね。

筆者: そう。 この往復を続けると、最初は薄かった線が次第に太くなり、地形の特徴が浮かび上がってきます。

  • 目的の位置はどこか
  • 近づくと危険な制約の崖はどこか
  • 落ち込みやすいリスクの谷はどこか
  • 最短でたどり着ける道はどこか

こうした“業務の地形”が見え始めると、 どんな技術を使うべきか、どの場面でAIを頼るのが妥当か── 自然に判断できるようになります。 逆に、地図が曖昧なままAIに質問すると、 AIは“どの地形にも属さない平均的な答え”を返す。 これは地図を持たずに「右ですか、左ですか?」と聞いているようなものなんです。

地図を描くために必要なのは、“ツールではなく観察”

筆者: 技術は必要ですが、それだけでは描けません。 開発言語の習得、DBのチューニング、ネットワーク設定……これらはあくまでツールです。 地図を描く上で本当に重要なのは、 利用者がどんな地形の上を歩いているのかを観察する力なんです。

  • どこで迷っているのか
  • どこが危険なのか
  • どこを通れば合理的なのか

こうした“地図の材料”は、会話の端々や、実際の動きの中に埋もれています。 ここを拾えるかどうかは、技術よりも観察の習慣に左右されます。

AI: AIは新しいツールだけど、利用者の地形を観察する力は時代が変わっても同じ、と。

筆者: その通り。 AIは日々アップデートされ、得意な領域もコロコロ変わる。 ある意味AIそのものが動く地形と言えます。 だからこそ、変化するツールではなく、 “変わらない利用者の実態を読む力”のほうが、長く効くんです。

■ AI時代には、「地図の更新」が以前より重要になる

筆者: AI時代の特徴は、業務の地形そのものが以前より頻繁に変化することです。 ルールが変わり、プロセスが変わり、利用者の動きも変わる。 だから、昔のように「一度地図を作って終わり」にはなりません。 仮定を置き、AIにサポートさせ、結果を照合し、地図を修正する。 このループはより高速に、より継続的に必要になります。

AI: AIの提案を取り込みながら、自分の地図を常に書き直していく……。

筆者: そうです。 そしてどれだけAIが進化しても、 地図を描くのも、使うのも、更新するのも、最終的には人間です。 AIは“答えらしきもの”を生成しますが、 その答えが地図のどこに当たるのかを判断できるのは人だけなんです。

だからこそ、AI導入は「地図を持った人」から進めるべき

筆者: AI導入がうまくいかない理由の多くは、 地図がないままAIを走らせてしまうことにあります。

AI: 地図がないと、AIのアウトプットを位置づけることができないからですね。

筆者: ええ。 AIの提案がどの目的に近づき、どの制約を踏み、どの道筋を短縮しているのか── 地図があれば判断できます。 地図のない状態でAIに頼ると、 「答えっぽいものが出てくるのに、実務に当たらない」 という典型的な状態に陥るんです。 だからAI導入は、 まず地図を描ける人が方向を定め、その上でAIを活用していく。この順番が必要だと考えています。

 

【第5章】現場で学ぶということ

筆者: 地図(モデル)の扱い方を話してきたけれど、もうひとつ大事なのは「地図と現実のズレをどう発見するか」、つまり「現場でどう学ぶか」なんだ。技術って、教本の順番通りには育たないし、AIが最短ルートを示しても、実際の現場で判断する力には直接つながらないことが多い。

AI: 判断力は、手順の知識とは別物なのですね。

筆者: そう。 例えば業務システムに障害が出たとする。AIに聞けば、もっともらしい原因はいくらでも返ってくる。でも、本当にそれを信じていいかどうかを判断するには、現場の“におい”を知らないとダメだ。

AI: “におい”とは、技術情報の外側にある、経験に基づく感覚ですか?

筆者: そう。例えば、ログの揺れ方、利用者が焦ったときの動き、部署ごとのクセ…。地図には載らないし、AIがまだ拾えない部分でもある。

AI: では、そのような感覚を身につけるためには何を意識すべきでしょうか。

筆者: ひとつは「点ではなく線で」仕事を追うこと。 作った機能が本番でどう使われているか。想定とどこが違うか。どこで利用者が止まるか。 これは「動いた/動かなかった」という判定よりも、ずっと大事な観察なんだ。

AI: 地図だけ描くのではなく、描いた地図を持って現地を歩き、ズレを見つけていく行為ですね。

筆者: いい言い方だ。そのズレが、次の判断を大きく変えてくれる。 「この前の機能、結局どう評価されたのか?」 こういう疑問を持つだけでも、視界がぐっと広がる。

AI: AIが整った答えを用意する時代になったからこそ、「問い続ける力」が必要になる、と?

筆者: その通り。 AIに手順を尋ねるのは悪くない。でも、「この手順は本当に現場を良くするのか?」という疑問を持つことは、人間が人間であるために必須の感覚だ。 これは、地図だけでも現場だけでも得られない視点なんだ。

AI: では、明日からすぐにできる小さな一歩は?

筆者: 「作ったものを必ず一度は見に行く」こと。 ログでも、利用者の動きでも、何でもいい。 見に行けば、想定との差分が必ず見つかる。 その違和感をメモしておくだけで、AIから得る情報の見え方が変わりはじめる。

AI: 地図と現地を往復しながら、自分の判断軸を育てていくわけですね。

筆者: そう。 その往復こそが、技術者としての厚みを作る。

 

【第6章】AIが“地図の外”で迷子になる瞬間

■ AIの限界は「知らない地形を知っているように振る舞うこと」

AI: ここまで地図の話を続けてきましたが、 AIはどこで迷うんでしょうか?

筆者: 一番迷うのは、 “地図の外側”に答えを作ろうとしたときです。 業務は複雑で、説明されていない背景や歴史がたくさんあります。 ところがAIは、空白を空白のままにはしてくれません。

AI: 空白を埋めようとするんですね。

筆者: そう。 埋めなくていい空白まで、きれいに埋めてしまう。 これは人間の新人が困るところと似ているけれど、 AIの方がやっかいなのは、 “もっともらしい言い方で断言してしまう” ことです。 人間なら「よく分かりません」と言う場面でも、AIはなかなかそう言いません。

地図の外側で起きる誤解は、業務理解と無関係な「別の土地」から借りてくる

筆者: AIは、未知の部分があると 「別の地形から似たものを持ってきて当てはめる」 という癖があります。

AI: つまり、違う業務領域のロジックを借りてきてしまう?

筆者: そういうことです。 例えば金融機関の事務フローを説明したのに、 AIが一般的なWebサービスの運用ルールを混ぜて回答する、みたいな。 これはAIが悪いのではなく、 “地図の境界線をAIの中で保持できない” という性質の問題なんです。 だから、AIの回答が正しそうでも、 「この地形の話じゃないな」という違和感が重要になります。

■ AIの限界を補うのは、「どこが地図の外か」を意識する態度

AI: どうすればその違和感を持てるようになりますか?

筆者: とても単純で、 “自分の地図がどこまで描けているか”を意識しておく ことです。 描けている範囲と、 曖昧なままの部分が混ざってしまうと、 AIが地図の外を勝手に埋めても気づけません。

AI: 逆に描けていれば、AIの回答のズレがヒントになるわけですね。

筆者: そう。 ズレは、判断材料になる。 AIの限界は、 未知の領域を未知のまま扱えないこと。 それを補うのが、人間が持つ“境界線の自覚”です。

 

【第7章】AIが示す誤解と、「手触りの違和感」

■ AIの間違いは、人間の間違いより説得力がある

AI: 第6章では、AIが「地図の外側」で作り出す誤解や、未知の領域を埋めようとする限界について触れました。では、その「もっともらしい誤解」と私たちは実務でどのように付き合っていくべきでしょうか?

筆者: AIの出す誤解は、 形が整っている という点で、人間が作る誤解より手強い。 文章のつながりもよく、例え話も自然なので、 地図が曖昧な人は「正しいように聞こえる」んです。

■ AIの誤解を見抜くには「地図の空白」を知る必要がある

筆者: 前章で書いたように、AIが間違えやすいのは、地図の“空白”です。 情報が不足している部分や、業務の歴史が絡んで複雑になっている部分。 ここにAIは一般解を当てはめてしまう。

AI: 空白を埋めようとして、違う地形を借りてしまうんですね。

筆者: そう。 だからこそ、“自分の地図のどこが空白か”を意識しておく必要があるんです。 曖昧なままAIの回答を読むと、すべてが“もっともらしく”見えてしまう。これがAI時代特有の危うさですね。

■ “手触りの違和感”が、誤解を見抜くための重要な道具になる

筆者: 誤解に気づくためには、 手触りの違和感を大事にする のが一番です。

AI: 手触り、というと?

筆者: 例えば、「そんなに一直線に行くはずがない」とか、 「この業務はそんなに単純化できない」とか、 そういう微妙な違和感。 地図を自分である程度描いている人は、 “道の勾配”や“地形の荒れ具合”を感じ取れるんです。

AI: モデルの精度ではなく、人の経験の方が重要になる部分ですね。

筆者: その通り。 AIはどこまでもなめらかに説明しようとする。 でも現実の業務は、段差があり、曲がりくねり、古い橋が残り、時には地滑りまで起きる。 この“現実の手触り”が、誤解を見抜くための唯一の基準になります。

■ AIが作る誤解は、地図が更新されるきっかけにもなる

筆者: 実は、誤解は悪者とは限りません。 AIの誤解は、自分の描いた地図の間違いや盲点を炙り出してくれる。

AI: 空白がどこにあるか気づくきっかけになる。

筆者: そうです。 ですから、AIの誤解を“排除する対象”ではなく、 “地図を更新する材料”として使うと、 AIとの付き合い方が一気に安定します。

 

【第8章】これからの若い技術者に伝えたい“しなやかさ”

AI: 筆者は、技術者たちにどんなことを伝えたいですか?

筆者: 一つ挙げるなら、「技術力にしなやかさを持つ」ということかな。

AI: “強い技術力”ではなく?

筆者: 強さは折れる。 しなやかさは変化に耐える。 高度成長期を生きた僕の世代の中には、技術に“強さ”を求める人が多かった。 難しい技術に精通していることが誇りで、最新動向を追い続けることが義務のようだった。 でも、AIがここまで進化した時代に必要なのは、技術知識の量ではなく、状況に合わせて柔軟に変わる力だと思う。もちろん「動向を何も知らずに」ではないが。

AI: 技術の“大黒柱”ではなく、状況に合わせて形を変えられる“竹”のようなイメージでしょうか。

筆者: そう。 折れず、流されず、でも抵抗しすぎず。 必要なときには深く根を張り、不要なこだわりは手放す。 AIの進化を恐れず、かといって依存しすぎず、目的に合わせて使う。それが、これからの技術者のしなやかさだ。

AI: しなやかさがあれば、どんな新しい技術が出ても生きていけます。

筆者: その通り。 AIがどう進化しようと、技術者の役割は完全には消えない。 形が変わるだけ。 だからこそ、「形が変わること」を怖がりすぎなくていい。

 

【第9章】AIが示す“最短経路”の扱い方

■ AIの答えは「地図を持つ人」には便利だが、「地図が曖昧な人」には危険

AI: 前章までで「業務の地図」について話しました。 ここからは、その地図とAIの関係をもう少し具体的に見ていきたいです。

筆者: AIを使っていて感じるのは、AIはよく“最短経路”を提案する、ということです。 でも、この最短経路は、地図をしっかり描けている人には便利なんですが、曖昧なままの人には危険なんですよ。

AI: 危険、というと?

筆者: 道を知らない人ほど、地図よりも答えを優先しがちでしょう? でも、AIの示す最短経路って、あくまでも平均化された一般解なんです。 業務固有の条件や、組織の文化、制約、責任の所在……、「過去に痛い目に遭ったから禁止されている実装」のような崖から落ちてしまう… そういった“地形”を踏まえていない最短経路は、実務の近道にはならないんです。

■ AIの最短経路は“地図のどの部分を通るのか”を読む必要がある

AI: AIの提案は便利だけど、それが地図のどこを通っているのか見ないと危険、ということですね。

筆者: その通り。 例えばAIが「この業務は自動化できます」と言っても、そこに至る道が

  • リスクの谷を越えているのか
  • 制約の崖を無視しているのか
  • 過去の背景という森の奥まで入り込んでいるのか

こういう“地図の文脈”を読み解く必要があるんです。 これは技術論ではなく、技術者としての姿勢の話です。

AI: AIの答えは“道”,業務地図は“地形”,という感じがします。

筆者: いい比喩ですね。 道は簡単に変えられますが、地形は急には変わりません。

■ AIの提案を採用するかどうかは「地形の理解」が決める

筆者: AI時代に求められる判断力というのは、AIがどんな道を示すかではなく、 その道がどんな地形を通っているかを見抜く力 だと思っています。

AI: AIが提示する“近道”の安全性や有効性を、人間が判断するわけですね。

筆者: そうです。 AIは道案内は得意だけれど、“地形の理解”はまだまだ人間がやるべき領域です

 

【第10章】AIを使いこなす人と、AIに振り回される人

両者の差は「質問の質」よりも「予想の質」

AI: AIに振り回される人と、AIを道具として使いこなす人の違いは何でしょう?

筆者: 一般には「質問力」と言われがちですが、私は少しニュアンスが違うと思います。 重要なのは、 質問の前に何を予想しているか です。

AI: 予想?ですか。

筆者: はい。 AIに聞く前に、「こう返ってくるだろう」という当たりをつける力。 予想があると、返ってきた答えの“ズレ”に敏感になります。

AI: そのズレが、地図の修正材料になるわけですね。

筆者: その通り。 AIは質問された通りに答えますが、人間の予想は“地図を描くための試金石”なんです。

■ AIに振り回されるのは「答えを評価する軸」がないから

筆者: AIに振り回される人の特徴は、返ってきた答えを評価する軸が曖昧なんです。 軸がないと、AIの回答のどこが良くてどこが違うのか、判断できません。

AI: それは地図の欠落と関係がありますか?

筆者: 関係大ありです。 地図が曖昧なままAIの回答を読むと、すべてが“もっともらしく”見えるんですよ。 これはAI時代特有の危うさですね。

■ AIを使いこなす人は「質問前にすでに半分仕事が終わっている」

筆者: AIを使いこなしている人は、質問の時点で半分以上、地図を描き終えています

AI: 質問をする前から、答えの輪郭を想像しているんですね。

筆者: そう。 だから答えが来た瞬間に、 「あ、ここが違う」 「思ったより深い話が返ってきた」 みたいな評価ができる。 評価できるから、次の質問も良くなるわけです。

 

【最終章】AI時代を歩くための“地図”との向き合い方

■ AIが進化しても、地図を描くのは人間の役割のまま

AI: ここまで地図を軸に話を続けてきました。 最終章として、AI時代における「地図」との向き合い方をまとめていただけますか?

筆者: わかりました。 結論を先に言うと……AIがどれだけ進化しても、 地図を描く・使う・更新するのは人間の役割のまま だということです。

AI: AIは道案内はできても、地形を把握できない。

筆者: その通りです。 AIは“道と道のつながり”を推測するのは得意ですが、 “業務という地形がなぜそうなっているか”までは捉えられない。 それは組織の歴史や文化、価値観が作るものだからです。

■ AI時代は「地図を描き続ける姿勢」こそが強みになる

筆者: AI時代の特徴は、業務そのものが変わるスピードが速くなることです。 だから大切なのは、 正しい地図を持つことより、地図を描き続ける姿勢を持つこと だと思っています。

AI: 地図は完成しない、という感覚ですね。

筆者: まさにそう。 完成しないからこそ、AIは便利なんです。 AIは地図の更新を手伝ってくれますが、 更新するかどうかは人が決める必要があります。

■ AI時代を歩く人の条件は「業務の地形に敬意を払えるか」

筆者: AI時代を歩く上で一番重要なのは、 業務の地形そのものに敬意を払えるか だと思います。

AI: 敬意、ですか。

筆者: はい。 目の前の業務には必ず理由があり、歴史があり、制約があります。 そこに敬意を持つ人は、AIの答えを鵜呑みにせず、 “この地形をどうすればより安全に、より合理的に歩けるのか” という視点を持てるはずです。

■ AIは“地図を描く人”にとって最良の相棒になる

AI: 最後に、AIは今後どんな存在になると思いますか?

筆者: AIは、地図を描く人にとって最良の相棒になると思います。 ただし、それは 人が地図を描くことを放棄しない限り という条件付きです。

AI: 地形を知る人がいて、道を示すAIがいて、両者が補完しあうイメージですね。

筆者: ええ。 AIはいつでも道を示してくれますが、その道を選ぶのは人間です。 そしてその判断を支えるのは、あなた自身が描いた“業務の地図”なんです。

 

◆ エピローグ

筆者: AIが示す道は、私たちの業務理解を深めるためのヒントになります。 でも、道を歩むのは人間で、その地形を読み解く力はまだAIにはありません。 その意味で、AI時代の技術者に最も必要な力は、 「地図を描き続ける姿勢」 だと思っています。

AI: ありがとうございました。 そして読者の皆さん、AIを使うときはぜひ、 “自分の地図のどこを歩いているのか” を意識してみてください。

筆者: それができれば、AIは必ず強力な相棒になります。

 

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筆者紹介

岩瀬 正(いわせ ただし)
1960年生まれ。
フリーランスエンジニア
情報処理学会ソフトウェア工学研究会メンバー

連想記憶メモリを卒業論文とした大学電子系学科を卒業。
国内コンピュータメーカーにて海外向けシステムのOSカーネルSEとアプリケーションSE、自動車メーカーにて生産工場のネットワーク企画から保守までの責任者、外資系SI企業の品質管理部門にてITIL,CMMI,COBITを応用した業務標準化に携わる。
合わせて30数年の経験を積んだのちにフリーランスとして独立し、運用業務の標準化推進や研修講師などに従事する。
80~90年代のUnix、Ethernetムーブメントをいち早くキャッチし、米カーネギーメロン大学や米イェール大学とも情報交換し、日本で最も早い時期でのスイッチングハブの導入も含めたメッシュ状ネットワーク整備を行うと共に、初期コストと運用コストをどのように回収するかの計画立案を繰り返し行い評価し、利益に繋がるネットワーキングという業務スタイルを整備した。
トライアルバイクとロックバンド演奏を趣味とし、自宅にリハーサルスタジオを作るほどの情熱を持っている。

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