運用保守の課題をSFで斬る

第6回 IT運用保守コラムのまとめ:見えない価値を測るナビゲーションの総括

概要

ITインフラ運用保守が「動いて当たり前」と見なされがちな現状に一石を投じ、その裏にある真の価値、そして暗黙知・経験値の限界、さらにインフラ管理者が「ユーザーの仕事」を守るという視点についてSFでの例えを交えながら深掘りする。

ITインフラ運用保守の現場に、あなたは今、どのような「価値」を見出しているでしょうか? そして、その価値をどのように「測定」し、周囲に「伝えて」いくべきでしょうか? 本コラムでは、ITインフラが「動いて当たり前」という認識の壁を乗り越え、その真の価値を理解し、可視化するための道筋を示してきました。最終章では、これまでの議論を総括し、皆さんが「見えない価値」を測るための新たなナビゲーションを手に入れるための、具体的な指針を提示します。

コラムの要点:見えない価値を測る「三本の矢」
見えない価値を測るナビゲーションの総括

コラムの要点:見えない価値を測る「三本の矢」

本コラムでは、ITインフラ運用保守の「見えない価値」に光を当てるため、三つの重要な思考法を「三本の矢」として提示してきました。これらは、ITインフラエンジニアが直面する様々な課題に対し、表面的な対処に留まらず、本質的な解決へと導く強力な武器となるでしょう。
1. 一般意味論:言葉の裏にある真実を見抜く視点 コミュニケーションにおける「誤解の罠」を解き放ち、言葉と現実のギャップを埋めることの重要性を理解しました。「地図は地形ではない」という原則を胸に、「いついつ化」を通じて情報の精度を高め、自己認識を深めることで、より正確な状況把握と問題解決が可能になります。これは、トラブルシューティングの初期段階での情報収集から、チーム内での認識合わせ、そしてユーザーからの漠然とした要求を具体的な要件に落とし込むまで、あらゆる場面で役立つでしょう。言葉の曖昧さを排除し、具体的な事実に基づいて判断を下す習慣は、無駄な手戻りを減らし、効率的な運用を可能にします。この視点は、私たちが無意識に陥りがちな情報のフィルタリングや解釈の歪みを認識し、より客観的な事実に基づいた行動を促します。
2. 形而上学:システムの存在意義を問い直す視点 ITインフラが「なぜ」存在するのか、その根源的な目的とビジネスへの貢献を深く問い直すことで、日々の業務に新たな意味を見出し、真の価値を明確にできます。ITインフラは、ビジネスの「生命の樹」を支える根であり、その「存在意義」を理解することが、単なるコストセンターではなく、戦略的な運用保守へと繋がります。あなたの仕事が直接的にビジネスの成長に貢献していることを実感できるはずです。この視点を持つことで、インフラへの投資の重要性や、自身の業務の優先順位を経営層や他部門に具体的に説明できるようになり、社内での影響力と評価を高めることができます。技術的な細部に埋没しがちな日常業務に、より大きな目的意識とモチベーションをもたらすでしょう。
3. 統合的システム思考:複雑な全体像を捉える視点 「サイロ化」というIT運用現場の課題に対し、個々の要素だけでなく、それらがどう相互作用し、全体としてどう振る舞うのかを理解する思考法です。まるでRPGの分断されたマップを、全体を俯瞰する視点でつなぎ合わせるように、複雑なシステム全体の相互依存関係を捉えることで、根本的な問題解決と効率化を実現します。これにより、部分最適に陥ることなく、ITインフラ全体としての最適なパフォーマンスを引き出すことが可能になります。技術的な専門性を持ちつつも、ビジネスプロセス全体を理解し、他部門と連携することで、真の課題解決に貢献する「横断的な視点」を持つことが、現代のITインフラエンジニアには不可欠です。この思考は、予期せぬ問題の連鎖反応を事前に予測し、より堅牢で適応性の高いシステムを設計・運用する能力を養います。
これらの「三本の矢」は、ITインフラエンジニアが直面する様々な課題に対し、表面的な対処に留まらず、本質的な解決へと導く強力な武器となります。これらの思考法を日々の業務に取り入れることで、あなたは単なる技術者から、ビジネス全体を理解し、価値を創造できる戦略的なエンジニアへと進化できるでしょう。それは、個人のキャリアアップだけでなく、組織全体のIT運用レベルを向上させることにも繋がります。これらの思考法は、あなたが直面する個々の技術課題を、より大きなビジネス上の文脈で捉え直し、ITインフラの持つ計り知れない可能性を引き出すための鍵となるはずです。


図6-1 3本の矢

 

見えない価値を測るナビゲーションの総括

私たちはこれまで、ITインフラの「見えない価値」を巡る旅をしてきました。時に理不尽に感じた「動いて当たり前、止まれば非難轟々」という現実。そして、その中で体を酷使し、心もすり減らすなどの不条理に直面しながらもITインフラを通してシステムを守ってきました。しかしこれからは、一般意味論、形而上学、そして統合的システム思考という「三本の矢」を新しい武器として、効果的で誤解を招かない改善を行い、システムの真の存在意義を問い直し、全体を見渡す新たな視点で業務をコントロールしていくことを目指します。
いかがですか? 一般意味論、形而上学、統合的システム思考といった耳慣れない言葉で話を進めましたが、中身は皆さんがいつも無意識にやっていることですよね? それが重要で、本コラムは皆さんの日々の経験によって培われた暗黙知を、誰もが共有し活用できる形式知にするアイデアなのです。皆さんが無意識に行ってきた優れた判断や行動の裏には、ここで述べたような哲学的な思考が深く根差していたのかもしれません。このコラムを通じて、その「なぜ」を言語化し、体系的に理解することで、あなたのスキルと経験は一層強固なものとなるでしょう。これは、個人の成長に留まらず、チームや組織全体の知識レベル向上にも貢献し、より強固で持続可能なIT運用体制を築くための基盤となります。
これらの思考法が、あなたの視界を大きく広げ、進むべき方向を定め、日々の業務に潜む「見えない価値」を明確にしてくれたなら幸いです。そして、その価値を正しく理解し、自信を持って伝えることができるようになったら、もう無用に腹を立てたり、一人で抱え込んだりする必要はありません。あなたの努力と貢献は、正当に評価されるべきものだからです。これまで抱えていた不満や孤立感が解消され、より建設的で前向きな姿勢で仕事に取り組めるようになるでしょう。
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ITインフラを支える皆さんと一緒に、これからも日本のビジネスと社会を動かし続け、次の時代へ進んでいきましょう。皆さんの活躍こそが、未来を形作る礎となるのです。そして、時には美味しい牛丼を心ゆくまで味わって、日々の労をねぎらうことも忘れないでください。(緊急連絡を受ける身には変わらないでしょうから、残念ながら満漢全席は難しいですよね)
ITインフラエンジニアが、単なる技術の守り手から、ビジネス価値創造の主役へと進化する時代は、まさに今、目の前に来ています。
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• スター・トレック@CBSスタジオ / パラマウント・ピクチャーズ
• 機動戦士ガンダム@創通・サンライズ
• 鬼滅の刃@吾峠呼世晴 / 集英社・アニプレックス・ufotable
• アポロ13@ユニバーサル・ピクチャーズ / ロン・ハワード
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★補足(蛇足)★

今回のコラムは依頼を受けてから中核とするテーマを考え始めるというゼロスタートで開始したのですが、従来の作業手順であればテーマの試行錯誤で時間を要し、一日の時間が十分にあっても完成まで数ヶ月を要すると思われました。
それゆえ作業の高速化を狙って、生成AIに頼ってみる方法を模索しました。
技術的な内容はGeminiが強いと風の便りに聞いたので、Gemini(無料版)と会話しながら私の思考パターンをGeminiに学習させ原稿を作成するという生成AIとの協業により、全6話がすべて、僅か四日で完成しました。しかも私は生成AIに初めて接し、試行錯誤での生成AIとの協業です。時にはGeminiに、こちらから何を教えれば動いてくれるのかを相談することもあったにも関わらず。

まだ、生成AIに全てを任せることはできません。
生成AIのレスポンスが一瞬で表示されたら、人間がレスポンスを読んで、細かいレベルで校正する内容をキータイプするというやり取りを数分の間隔でひたすら繰り返しました。それを四日間続けることで、だんだんとこちらの文章校正のクセを覚えてきて、文章のニュアンスも似せられるようになりました。
でも任せ過ぎると要るものを削除したり、ストーリー優先でボリュームを絞ったり、完全に日本語の意味が不明だったり、レスポンスが速い分、一瞬で色々なものが消え去るのでこちらの負荷もかなり大きく、バックアップの世代管理だけでも疲れました。そして面倒だったのは、Geminiが認識している文字数と、wordに貼り付けた原稿の文字数がまったく違うという点です。誤差の量がエラーの領域まで大きく違うので、何が悪いのか見当もつきません。
しかしそれを除けば結果の立派さは、100%人間生成のこの補足の文章の質と比べると、圧倒的な精度の差が見て取れると思います。これが生成AIとの協働の凄さです。

私が試した使い方では、文章作成における力作業的な部分は生成AIで効率化できます。しかし、読者に内容を深く理解してもらうための話の進め方、起承転結の配分、サブテーマの展開や順序、流れの緩急のつけ方、読者が疑問を感じそうなセクションのピックアップと微妙な表現の修正、著者が経験上大切に説明したい部分などは、人間の頭脳でしか成し遂げられない領域だと感じています。
とは言え、その圧倒的な時間短縮効果は計り知れません。生成AIの使い方を間違えず、利用する側が十分な知識と知恵を積んで生成AIを有能な協働メンバーとして利用すれば、これほどまでに有益なツールはないと改めて実感しました。

 

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筆者紹介

岩瀬 正(いわせ ただし)
1960年生まれ。
フリーランスエンジニア
情報処理学会ソフトウェア工学研究会メンバー

連想記憶メモリを卒業論文とした大学電子系学科を卒業。
国内コンピュータメーカーにて海外向けシステムのOSカーネルSEとアプリケーションSE、自動車メーカーにて生産工場のネットワーク企画から保守までの責任者、外資系SI企業の品質管理部門にてITIL,CMMI,COBITを応用した業務標準化に携わる。
合わせて30数年の経験を積んだのちにフリーランスとして独立し、運用業務の標準化推進や研修講師などに従事する。
80~90年代のUnix、Ethernetムーブメントをいち早くキャッチし、米カーネギーメロン大学や米イェール大学とも情報交換し、日本で最も早い時期でのスイッチングハブの導入も含めたメッシュ状ネットワーク整備を行うと共に、初期コストと運用コストをどのように回収するかの計画立案を繰り返し行い評価し、利益に繋がるネットワーキングという業務スタイルを整備した。
トライアルバイクとロックバンド演奏を趣味とし、自宅にリハーサルスタジオを作るほどの情熱を持っている。

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