システム管理における人材育成

第4回 システム管理における人材育成 チームリーダーのリーダーシップ

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

今回は、Off-JT(職場を離れた集合形式の研修)の場で、どのようにリーダーシップを開発するかを検討していきたいと思います。
 
前々回、リーダーシップの開発には体験が重要であることをお話ししました。OJT(現場での教育)は、その点、実際の仕事の体験が伴いますので効果は期待できますが、計画的な育成という点で問題があります。そこでOff-JT(集合研修)での育成が必要になるのですが、集合研修でも、座学(座って先生の話しを聞く)だけでは効果ありません。集合研修においても、体験を通して学習できるようなプログラムにしなければ効果は期待できません。そこで体験学習という研修の進め方が、この50年間、研究され実施されてきています。
リーダーシップの研修ですから、体験は何でも良いというわけにはいきません。駅前で歌を歌ったり、夜中に何時間も歩き通したりしたとしても、その体験はそれなりの意味と価値はあると思います。が、リーダーシップを身につけることに直接役立つことは期待できません。
リーダーの役割である「戦略の遂行、意思決定、組織の開発、チーム作り、ナレッジマネジメント、キャリア開発、業績達成」に関係のある体験が必要です。またリーダーシップの開発のためにやっているということが受講者に納得されないと、研修効果は低くなってしまいます。
体験学習には、色々な種類があります。課題討議、ケース討議、ゲーム等のツールを使った実習、体を動かす実習、シミュレーション、ロールプレイング、演習問題など主となる体験と、その体験を深め、気づかせる相互指摘や振り返りなどを行います。
ここで重要なのが、DO(やってみる)、Look(振り返える)、Think(考える)、Grow(気づき成長する)を、この順序で、何回か繰り返すということです。ケース討議の例で少しお話ししましょう。まず研修の初めに、研修の目的(リーダーシップの開発)、体験学習、ケース討議の進め方について若干の案内をしますが、この段階では理論的なことは伝えません。先ずやってみる、そのなかで受講者自身が感じること、気づくことを大切にします。 
先ず個人でケースを読み、自分ならこうするとか、この事態ならこうすればいいと考えます。この準備をもって、ケース討議に臨みます。
ケース討議は、ケースの内容自体に関わる側面と、討議メンバーとの関わり方という側面があります。ケースの内容に関わる側面では、自分の気づかなかった記述が他のメンバーから指摘されたりして、自分が状況をどのように受け止める傾向があるかに、気づかされます。例えば、「このケースの出来事では仕事の手順がしっかり作成されていないことが問題で、標準ステップをマニュアル化すればいい」と準備のときに考えたとします。討議が進む中で他のメンバーが、「A君(ケースの登場人物)は、監督者が嫌いでこの仕事をしたくないんだよね」という発言を聞いたとき、「自分は、人の気持ちについては関心がなかったな」と気づきます。概ね自分の得意な領域や経験の中でケースを考えようとしてしまいます。問題解決に際しても、自分はこれしかないと思っていた解決策が思わない結果を引き起こす恐れがあることが指摘されたりします。このような経過の中で、自分の問題のとらえ方に気づいてきます。
また、討議メンバーとの関わりという側面においては、みんなが様子を見てしまい全く発言がない時間が続いたり、それを誰かの発言が打ち破ったり、討議の進め方について提案があったり、黙っているメンバーに発言を促す投げかけを誰かが行ったり、ある発言によりグループの意見が一気にまとまったり、あるメンバーの発言にうんざりしたり・・・、という出来事が起こり、それぞれの出来事に何かを感じ、何らかの気づきを得ます。
ケース討議が済んだら、すぐに振り返りに入ります。何を感じたか、気づいたか。個人で振り返り、各自ノートに記入してもらいます。内容自体に関わる側面では、「自分で、もう少し上の立場で考えないといけない」とか、「もう少し相手の観点に立って考えないといけない」、などと気づきを深めていきます。討議メンバーとの関わりという側面では、「今回は、自信ないけど発言してみたらメンバーに受容れてもらえた」「私はどうも人の意見に振り回されて、何を話していいか分からなくなってしまう」など、気づきを確認します。
その後、その気づきをグループで話し合っていきます。「私は制度・システムの面から組織を見る傾向が強いようです」という発言に対して、「そうだ、自分もそうだな」と気づいたり、「私は、仕事さえ片付けばそれでいいと思っていたのではないか、もっと組織全体を考えなければならないのに」と気づきが触発されたりします。「同じ経験なのに人により気づくことは違うものだな」という気づきもあります。討議メンバーとの関わりという側面でも、振り返りの中で「あの時、私は論理より気持ちに訴えて思わず発言してしまいました」という発言に対して、「あの発言は私にはインパクトがありました。グループの見解もあの発言を中心にまとまりましたね」とメンバーに言われ、「結構、私にも人に影響を与える力があるのだな」と気づいていきます。一方「あんなに時間掛けて話したのに、みんな下を向いてしまった。私の気持ちを訴えたつもりでしたが」という発言に対し他のメンバーから「あなたはいつも『みんなは・・・』と話しますよね、それが気になるのです。私は違うと思ったので、あの時一瞬反発を感じました」と言ってもらう。それにより、「これから『みんなは』ではなく『私は』で話してみよう」と相互の指摘、話し合いを通して失敗経験を反省し、改善点を見つけたりします。
このような振り返り、話し合いを通して、自分の物の見方の変革や、自分の行動の変革が行われ、リーダーシップの向上につながっていくわけです。できれば、ケースも複数をこなしていくと自分の傾向が多面的に見えてきます。問題に当る姿勢も当事者意識に富んだものに変化していきます。関わり方についても、前の気づきを次ぎの討議で実践してみて、検証し、新しい行動に慣れていくことができます。このような気づきと変革こそ、その参加者にとってかけがいの無い学習であり、体験学習でしか得られない貴重な学びなのです。
体験学習では、そのような各メンバーの気づきを整理する意味で、リーダーシップに関する理論を、体験の後に入れることになります。
 
次回は、リーダーシップの役割の一つであるチーム作りについて検討していきたいと思います。

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筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

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