強いチームを育てる

第3回 チームを育てる三つの学習 ~集合知発揮の場~

概要

組織の「タテのマネジメント」に対し、チームマネジメントは「ヨコのマネジメント」と言えます。タテのマネジメントについては世の中で様々に謳われていますが、実際の職場で働いているのは人であり、各々の職場の「チーム」です。知的で快活なチームは、解くべき課題を正しく見つけ出し、集合知を発揮します。知恵とノウハウは自然に伝承され、応用進化を繰り返し、ひいては事業の発展に貢献することができます。チーム本来の力を取り戻す、チームマネジメントの方法論をご紹介します。

 前回は「チームを育てる三つの学習」のうち、「計画立ての場」についてお話ししました。 大日程計画はチームと事業を繋ぐものであり、計画そのものの背景・目的・   目標をチームで共有することが重要です。 中日程計画はチームとチームを繋ぐ場であり、問題解決の場です。   中日程計画を立てる場で心配事や懸念を挙げきり、これを解決するための諸策を盛り込み、「出来る計画」として実行に移します。 また、チーム間で中日程を共有することで連携すべき点やクリティカルな事柄を把握できます。 小日程はチームとチームメンバーを繋ぎます。仕事の段取りや準備も含め、2~4時間単位に分解し、抜け漏れを無くすことと、メンバー間で仕事の進め方の適正を確認します。 今回は集合知発揮の場についてお話しします。

目次
3、チームを育てる三つの学習

3、チームを育てる三つの学習

2)集合知発揮の場
 
 【 集団的知性「集団思考や個人の認知バイアスに打ち勝って集団が
  協調し、より高い知的応力を発揮する」】( Tom Atlee )
 
i )アウトプットイメージの共有
 集合知を発揮するには、まず得たい答え、つまりアウトプットイメージを共有することが必要です。そもそもこれがずれていると、その後の様々な支障に繋がります。このアウトプットイメージの共有には「絵で描く」という方法が有効です。人によって、同じ言葉で別の意味になることがしばしばありますし、そのような場合、いくら言葉を駆使しても伝わりにくく、結局絵で描いてみることで認識を整えたりします。また、絵で描くことは一種のレトリックでもあります。絵にすることで新しい表現が入り新しい視点や認識を喚起することが可能だからです。決まりきった言葉で表現して結論を急ぐより、絵から想像をめぐらしチームメンバーで描き加えることで、想像力は連鎖し、アウトプットのイメージはより鮮明に、また多面的にとらえることができます。
 

 

ii )課題バラシ
 こうやって得たアウトプットイメージに対して、「まだ出来ていないこと」「決まっていないこと」「未知の技術」「心配事」「懸念」を挙げていきます。これが課題バラシです。このときに大切なのは、バラスことに注力するということです。いきなり整理や体系化を始めると、心配事が隠れてしまったり、決まっていないことがあたかも決まったかのように見えてしまいます。徹底的にバラス。挙げきることが目的です。
 また、課題バラシのときには解決策の議論を行ってはいけません。挙げた課題に都度解決策をつけてしまうと、全ての課題が解決されたかの様な錯覚を起こし、課題を出し切ることをせずに検討を終えてしまうものです。解決策の検討は課題バラシの後に改めて行います。
 

 

iii )作戦ストーリーの検討
 作戦ストーリーとは、課題バラシの結果、複数のステップを経て解決に進むものや、そもそも難度の高いことを解決するために、解決までの道のりを行程として展開するものです。策と行動をセットにしたストーリーというところです。つくられた作戦ストーリーは中日程計画に落とし込まれます。つまり作戦ストーリーは、大日程計画より細かく中日程計画より粗いものとなります。あえて別方式の検討を並行して進めるなどリスクヘッジも必要であれば用意します。
 作戦ストーリー上のステップを進めたり、作戦そのものの終了時には先に進むか否かの判断を入れます。この時大切なことは、合格水準のみをターゲットとせず、準OK、準NGなどを予め設け、これにチームメンバーを含めた関係者で合意することです。
 
● OK:誰が見ても合格という水準
● 準OK:条件付きで前に進めること。未達部分は次行程に送るなど。
● 準NG:本来は止めるべきだが、次行程を進めながら並行して対処する。
● NG:行程を止めてやり直す。不合格。
 
図6:計画立てと集合知の関係

 

図7:集合知から学習すること

 

 アウトプットイメージ、課題バラシ、作戦ストーリーが繋がり、技術課題や未定事項への対策がされ、中日程計画の中で担当者のスキルに関する懸念やフォロー、負荷の平準化の配置計画など、日常的な問題点が解決された上で中日程計画が策定実施されれば、仕事はスッキリと進めることができます。
 
次回は、自律的なプライオリティ設定の場についてお話しします。
 
 
閑話休題 ~コラムのコラム~
正確さともっともらしさ 「正しい地図で遭難」「間違った地図で生還」
 
八甲田山の悲劇
 明治35年1月、青森の歩兵第5連隊が八甲田山で雪中行軍訓練を行いました。地元の案内人を断り、地図を頼りに進軍。1日目の昼頃から記録的な寒波が襲来します。定員の防寒装備は冬季の通常装備で冬山登山には粗末な装備と言えるものでした。暴風と深雪の中、行軍は難渋を極めます。そして山中での露営を強いられます。
 2日目の未明、反転帰営することにし、進軍を再開しますが、渓谷に迷い込んでしまいます。隊員の一人が目的地への道を思い出したと言い、再び方針を変更し本来の目的地へ向かおうとします。しかし、さらに道を誤り深い谷へ入り込み戻る道まで見失ってしまいます。三たび方針を変更し再度帰営をめざしますが、3日目になっても帰路を発見できず、凍傷で倒れるものが続出。統制もとれなくなり散り散りになってしまいます。5日目に捜索隊が遭難者を発見しますが、訓練参加者210名のうち、199名が死亡という大惨事となりました。
 
奇跡の生還
 ハンガリー軍がスイスのアルプス山中で軍事演習をしていました。偵察隊が本体を離れすぐに雪が降り始めました。やがて一面の銀世界となり、道を見失ってしましました。雪が降り続く中2日間をさまよい、体力を消耗し死を覚悟します。
 進退窮まったかに思えたとき、ある隊員が偶然ポケットから地図を見つけ出します。この地図を頼りに行軍を再開し3日目に無事本体と合流することができました。偵察隊の上官が帰還を喜んだのもつかの間、その地図を確認して衝撃を受けます。その地図はアルプスのものではなくピレネー山脈のものでした。
 
 正確な地図を持っていた青森第5連隊は遭難し、ハンガリー軍は違う地図のおかげで無事生還できたわけです。この時の地図の効能はなんだったのでしょうか。
 実際は別の山だったのですが(おそらくはルートは酷似していたでしょうが)信じるに足る道筋を明示し、確信を持った行動を引き出し継続させたことが生還へと導いたのだと思います。一方、青森第5連隊は正しい地図を持っていたにもかかわらず、隊員の思い込みを信じて右往左往した結果、遭難してしまいます。
 
 正確さより、信じるに足るということ、言ってみれば「もっともらしさ」が、計画(ロードマップ)には大切であるし、それでこそ確信を持った行動を引き出せるということを表していると思います。
 
 チームで自ら描いたアウトプットイメージに向けて課題をバラし、作戦ストーリーを中日程計画にまで落とし込み、不安や懸念への解決策を盛り込めば、「頼りになる計画」としてチームの行動力を引き出し続けることが可能となります。

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筆者紹介

宮澤 毅(みやざわ たけし) Future Management & Innovation Consulting Inc チーフコンサルタント 1961年生まれ、1985年千葉工業大学卒。

1990年電機メーカーの開発者を経て、日本能率協会コンサルティング(JMAC)に入社 2011年JMACグループであるFMIC社へ移籍、現在に至る JMAC所属時から、プロジェクトマネジメント、開発効率化、商品戦略、商品企画、標準化など、 主に開発部門へのコンサルティングに従事し、50社以上のコンサルティング実績がある。 近年は、場のマネジメント(Ba+)による職場チームの知的生産性向上へ注力している。

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