運用設計を考える

第3回 システム設計の中での、運用設計の重要性

概要

前回のコラム「システム運用設計」というテーマに引き続き、今回からは「運用設計を考える」というテーマで再度、連載をいたします。今回は、皆さんからのご意見やご質問なども受けながら、トヨタ生産方式の考え方も織り込んで、運用設計について考えていきます。

目次
運用されてこそ、システムの価値は生まれる。
運用現場の声を聞こう
次回予告とお願い
皆様こんにちは。伊藤でございます。大雨や異常な気温などが続きますが体調を崩されていませんでしょうか。
 2012年8月から1年間、私は本サイトで 「システム運用設計」で必要なこと というテーマでお話してまいりました。その際の主要なテーマは、「障害対応は、システム運用の本来の業務ではない」ということでした。今回は、システム運用を、通常の「ものづくり」の業務と比べることで、運用および運用設計を考えていきたいと思います。
 
 さて「運用設計を考える」第3回目は、システム設計の中での運用設計について考えてみます。
 
 

運用されてこそ、システムの価値は生まれる。

 私は製造業に勤めております。製造業とは、モノを生産し、販売することを”なりわい”としております。俗に言えば、「作ってナンボ、売ってナンボ」の世界です。私も、入社以来、「君たちは製造ラインの人たちに食べさせてもらっていることをよく頭に入れておけ。」と言われ続けてきました。
 モノを作って、価値を与え、収入を得るという構図なわけです。もちろん、売れなければ何ともなりませんし、売れるモノを企画し、設計することも大変重要ではありますが、それを作るために苦労していては、言い換えると、製造のための時間がかかるようなモノでは、いくら売れても収益に結びついては来ないのです。
 そこで、我々の会社では、如何にして製造コストを低減するかに注力しています。
 そのため、製造工程での工具の配置や使う部品の並べ方、簡単な自動機の設置、多種混合ラインのため、いかに作業バランスのとれた生産順序にするか などの製造工程での取り組み、安定した品質で、低コストでモノを作るための生産設備の検討 などの生産技術での取り組みなど、会社あげての活動を行っています。
 モノの企画、設計分野も例外ではありません。この分野では、最終的にモノ(弊社でいえば自動車)を買っていただくこと、つまりお客様に購入していただく製品を開発することが大変重要な役割ではありますが、他方では製造工程の内容を決めてしまう業務でもあります。例えば見かけは同じような部品でも、A車種とB車種を比べた場合、製造のためのコスト とくに作業時間が大きく違ってくるものがあります。また、概して作業時間が多く掛かるものほど、品質も安定したものにし難い傾向があります。
 大変な数の部品が組み合わさって自動車になってきますので、これらの積み重ねによって生産コストに大きな影響を与えてしまうのです。
 
 さて、情報システムでも状況は同じではないでしょうか。以前から申し上げておりますが、システムは運用されてこそ、その価値を生み出すものです。また、生み出す価値に対して運用のためのコストが必要以上にかかってしまってはどうしようもありません。これは、モノづくりの現場と全く同じ図式と言ってよいでしょう。
 運用コストを低減するためには、前に申し上げている障害管理の徹底で、障害をいかに減らすかなどの運用部門での取り組み、システムを稼働させる環境(H/W、OS、DB、ネットワークなど)の検討などのインフラ部門での取り組みなどもございますが、システムの企画、設計部門での運用コストの見定め、無駄のない運用のできる運用設計も大変重要になってくるわけです。
 
2012年8月から1年間、私は本サイトで 「システム運用設計」で必要なこと というテーマでお話してまいりました。その際の主要なテーマは、「障害対応は、システム運用の本来の業務ではない」ということでした。今回は、システム運用を、通常の「ものづくり」の業務と比べることで、そのあたりのご理解を深めていただきたいと思います。
 

運用現場の声を聞こう

 それでは、モノづくりの現場での企画、設計段階で製造コストを下げる活動の例を一件ご紹介いたします。
 それは、現場での作業のしやすい、作りやすい部品を設計するための取組みです。前項で、同じような部品でも車種によって作業時間が大きく違っている場合があることを申し上げました。
 この原因を調べていくと、作業のしやすさの違いがあることがわかってきました。例えば、ある車種では、部品を組み付けるとき、部品の一部がガイドのような役目をもち、単に部品を置くだけで、正しい位置、向きに組み付けられます。ところが、他の車種では、位置合わせのマークを目印に片方の手でしっかり押さえていないと、正しい位置、向きに組み付けられません。したがって、後者では、位置合わせの手間、押さえている手間などがかかってしまい、作業時間がかかってしまうのです。また、位置合わせが人の作業に依存するために、間違いも一定の頻度で発生してしまいます。
 生産の自動化のために製品の設計を変更することは、よく聞きますが、人の作業であっても、作業の”やりにくさ”が積み重なって、製造コストを引き上げることになっているわけですので、設計段階でそれを評価し、あらかじめやりにくい作業の発生しない設計を行うことは大変重要です。
 設計段階で製造コストを引き下げ、製造品質を安定させるため、この問題に対しては製造工程でのやりにくさを、位置合わせの方法、間違った部品(右側用と左側用など)が組み付けられない方法、ブラインド作業(手探りでの作業)の有無などのキーワードによって洗い出し、それぞれの部品をどうしたら作業しやすい形にするかを、製造部門と設計部門が一緒になって作りあげ、その基準に沿って設計するように活動しています。
 
 さて、この取組みについて、情報システムの企画、設計でも同様に行えるものと考えられます。
 作業のやりにくさ、作業時間のばらつきなどは、運用部隊や、利用部署でのシステムの利用実態をよく調査することで、わかってきます。以前のコラムで申し上げたシステム障害低減活動のなかでも、システムの運用のやりにくさが原因になっている事象の比率が多いことがわかりました。
 例えば、半角英数字のみしか受け付けられない仕組みにも関わらず、データ入力画面で全角入力ができてしまう。とか、A処理と、B処理では処理の順序が決まっているのに、逆の順序もしくは前処理がなくても動作してしまうプログラムなどの存在です。
 また情報システムの場合、このプログラムの処理順序や、処理条件は、システムの年数が経つにつれ、追加処理、特別処理が加わり、より一層複雑になっているのが実態でしょう。JOB管理システムも進化していますが、管理システムの設定が複雑になれば、人間系でのミスも増加しますので、現状のシステム構成も棚卸しを行い、特に運用者や利用者の判断や操作に頼っている部分に焦点をあてると問題点も抽出しやすいでしょう。
 これらの事柄を”運用のやりにくさ”として洗い出し、どのような仕様にすれば人手に頼らなくてもよくなるのかをシステム開発部門と運用部門や利用部門と一緒になって検討し、あるべき姿を編み出してシステム開発の標準として織り込んでいくことが、運用コストを低減し、システム障害も低減できるシステム設計につながる道筋でしょう。
 
 ところで、運用設計をシステム設計の中で分離して考えるのは好ましくないと思います。確かに、レガシーなバッチ処理では、運用部分が独立しているため、オペレーションを中心に、狭義の運用設計という概念はあったと思いますが、最近のシステムは、オンライン処理と連携したバッチ処理が行われ、情報発生源でのデータ入力や、利用部署での情報アウトプットが行われているのがほとんどでしょう。情報システム化とは、ビジネスの流れを再構成することです。システムへの入力と出力は、ビジネスの流れに対してシステムが関わるプロセスそのものであり、その仕様と強く関わっています。システムの運用部門もその一連の流れの中で業務を行っているわけです。
 従って、仕様書作成段階から、運用のあるべき姿を描いていく必要があります。言い換えると、ビジネスの中で”システムがどのように使われるか”が運用である と考える必要があるわけです。
 システム企画、設計の中で、運用設計を別に考える時代は過ぎ、システムがどう使われるか、どう使われるべきかを考えることは、実は運用設計そのものだと考える時代になっていると思います。
 

次回予告とお願い

 次回は、「システムのカットオーバーの条件 システム運用は仕様通りですか」の予定です。
 また、私の拙文を読んでいただき、様々な疑問やご質問があれば、ぜひ事務局までご連絡ください。私の一人合点な部分も多々あるかと思いますし、疑問やご質問にお答えするなかで新たな気づきも得られるのではないかと思っております。

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筆者紹介

伊藤 裕 (いとう ゆたか)

トヨタ車体株式会社 情報システム部 ITマネジメント室 参事補

自動車製造業でのシステム管理、運用部門の管理者をはじめ、IT予算管理、J-SOX、セキュリティ対策対応など、企業の情報システムにおける様々な経験をもつ。

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