産業/企業発展の核として情報産業/IT部門の寄与度を高める

第3回 「IT投資設計・開発ガイドライン」活用実践ノウハウ

概要

IoT/Industrie4.0に飛びつく前に、今の国内産業/自社におけるIT戦略/IT投資を省みた土台の強化から始めませんか!? 企業戦略として、IT戦略/IT投資は、永遠の命題である。高価なH/W投資の時代から、パッケージソフト、クラウドと個々に発展を遂げたIT技術が、今では、インターネットを介して繋がることで価値を発揮するIOTの時代となった。個別の対応で持ちこたえてきた時代から、名実ともに、全体を考える時代到来と言える。 では、今までのやり方で通用するのか?! 総務省から発表された「平成27年版 情報通信白書のポイント」を見るに、「今までもやり方では通用しない。」傾向が読み取れる。しかしながら、私は、斬新なやり方が必要だとも思わない。やるべきことを曖昧にせず、明確にし、迷ったら立ち返る回帰点を常に共有することである。ある人は、「当たり前なこと。」とか「ウォーターフォール開発=古臭い」と言うが、それは、目的・目標、やることが決まってからの話である。 ここで重要なのは、目的・目標、アプローチ方法・手段の決め方である。その必要性の提議と手順をガイドラインとして提案、提示する。

最初が肝心

「ようやく、ITの導入(更改)を訴え、要約、稟議を取り付けた! さあ、これから本当(?)のIT導入だ!!!!!(時期としては、ちょうど、(↓)のあたり)」

図1(クリックして拡大)

この時点で、多少の差はあれども、IT導入に向けて、少なくとも以下の準備は、整っているかと思う(細かくは色々あるが、一般的に最低限必要な項目です)。

  • 予算の確保
  • 体制の確保(依頼元主管部門と発注先※)※社内IT部門または社外ITベンダー含
  • プロジェクト目的と目標
  • 実現したい要件(但し、この時点では、未だ概要レベル。採用システム含)
  • マスタースケジュール(WBS大項目、マイルストーン、納期)

これまでの”情報サービス業”/”IT部門”が、IT投資企業/自社の損益に、顕著な「寄与度」を達成できなかった最大要因の一つは、第2回で、「IT投資設計・開発ガイドライン」のコンテンツとして提案した”モデリングガイドライン”が十分取り入れられなかったことにあると考える。

但し、”モデル図”と”モデリング”は、「寄与度」を高めるのに必要な手段であるが、高い「寄与度」を保証するものではない。大切なのは、「寄与度」を高めるのに必要なコンテンツ(目標と達成の条件・仮定、検討の経緯)がそこにあるということである。従って、思ったほどの「寄与度」が達成できなかった時に、立ち返って、軌道修正するための”航海図”と”磁石”のようなものである。”航海図”と”磁石”を持たずして、大海原に身を投じるのは、自殺行為と言える。逆に”航海図”と”磁石”なくても、勘と経験で進めるというのは、池にボートを浮かべているようなもので、ビジネス活動とは言えない。

モデリングの実践活用ポイント

第2回で提案したガイドラインの通り、”モデリング”は、業務フローだけを描く手法ではない。前述の準備項目からの”モデリング”が必要である。

予算の確保

  • “目標図”によって、”投資理由”と”目指す数値目標”を明確にモデリング(宣誓)する。

体制の確保(依頼元主管部門と発注先※)※社内IT部門または社外ITベンダー含

  • あとは作るだけと、IT部門中心の体制になっていませんか? CPOは居ますか?

プロジェクト目的と目標

  • プロジェクトメンバー全員が、”目標図”で、相互理解していますか?
  • 全体の中でのスコープは、”事業構造図”、”取引関係図”で、認識が一致していますか。

実現したい要件(但し、この時点では、未だ概要レベル。採用システム含)

  • RFPに書かれていることだけを実現すれば良いと思っていませんか?
  • もう一度、優先付けを”目標図”で、”モデリング”してみてください。
  • “業務要件”と、”機能要件”は違います。”業務要件”が明確になって、”機能要件”が決まります。”業務要件”は、ヒューマンオペレーション(人手)とシステムで実行する機能の両方を含んだ必要なプロセスを定義します。新しいプロセスは、以下の順で定義します。
     ① 要らないプロセスを削除 ⇒ 作り込み(”機能要件”の定義)必要が無し。
     ② 必要なプロセスを追加
      ⇒③-1 自動化可能 ⇒ ”機能要件”を定義する。
      ⇒③-2 人手+システム ⇒ ”機能要件”含めた”業務要件”を定義する。
      ⇒③-3 システム対象外 ⇒ ”業務要件”を定義する。
    以上を”俯瞰図”、”業務フロー図”で明示します。機能要件だけを”モデリング”するのでは、不十分です。

マスタースケジュール(WBS大項目、マイルストーン、納期)

  • 筆者の場合、”俯瞰図”、”業務フロー図”について、現状(AS-IS)と、将来像(TO-BE)をそれぞれ1か月、2か月の計3ヶ月を目安として”モデリング”します。
  • 3ヶ月は、一通りの”モデル図”の初版を作り上げる、一般的に、”全体構想・業務要件定義フェーズ”とか、”ブループリントフェーズ”と呼ばれる期間です。”モデリング”は、この3ヶ月で完結するものではありません。迷ったら、立ち返ったり、再確認して加筆・修正していくプロジェクト全体を通して、維持管理していくものです。
  • 現状(AS-IS)と、将来像(TO-BE)の”モデル図”を比較することで、理論的な改善効果の算出を行います。

実践モデリングノウハウ

1.何を基に、どこまで描けばよいか

第2回で記した通り、”事業構造図”、”目標図”、”取引関係図”は、有価証券報告書または、それに準ずる決算報告書類をベースに作成できるが、皆さんの疑問は、”俯瞰図”、”業務フロー図”については、何を基に、どこまで描けばよいかだと思います。

闇雲に業務フローを書いても、何の問題も、原因も見つかりません。「とりあえず書いてみる」は、それ自体が無駄な作業です。 基にするのは、”事業構造図”、”目標図”、”取引関係図”です。

“俯瞰図”は、スコープ内のプロセスの全体のつながりを”モデリング”します。”業務フロー図”は、”目標図”で描かれた「目的・目標を阻害する要因となるプロセス」を炙り出すように作成します。

目の付け所(描き処)は、会社間、部門間、担当間です。会社間、部門間、担当者間の関係は、不明確と曖昧の宝庫です。ここを突いて可視化することで、隠れた問題を見つけることができます。筆者は、埋蔵金と呼んでいます。

図2(クリックして拡大)

2.”モデリング”は、お絵かきではない。最適解を導くための方程式。

①例えば、”目標図”で、「オーダー処理業務工数の半減」を掲げたら、”俯瞰図”では、「オーダー処理業務を中心とした前後会社/部門とのプロセスの関係」を描く。

図3(クリックして拡大)

②”業務フロー図”では、「オーダー処理のオペレーションを5W2H」で描く。

図4(クリックして拡大)

③ここで業務量のシミュレーション評価を行う⇒「FAX」の処理時間が多いことが解った。

図5(クリックして拡大)

④解決策は、「OCRの導入」ではない!? 解決策は、「FAX禁止」です。なぜそれが可能なのか?!

本事例の場合、右図赤丸のグループの工事会社からのFAXが半数を占め、しかもそれは、オーダSYSで表されたオーダーエントリーシステムへ入力するルールにもかかわらず、FAX も送っていたというイレギュラーを通り越したイリーガルなローカルルールがまかり通っていた状態を表しています。

図6(クリックして拡大)

担当者の言い分としては、オーダーを受け付けてから指示書を出すまでの時間が短く、できるだけ早く情報が欲しいがために、システムに入れる前にFAXでの事前情報提供をお願いしていたという安心を得たい理由でした。しかし、工事関連会社の担当者を含め、実際の作業量と手間が増えていたことも事実で、この場合の最適解は、「FAX禁止」となります。ルールを最適化しただけで、OCRのような新たなIT投資を行わずに目標を達成できたわけです。IT投資の寄与度を高める効果的解決策は、無駄な仕事を丸ごと無くすことです。それは、ガイドラインに準拠した”モデリング”により、因果関係を明確にすることで導き出すことができます。

3.人のふり見て、我がふり直す”モデリング”

“俯瞰図”は、問題事業の発生源に遡るために有効な”モデル図”である。

例えば、「納期通りの出荷ができないのは、納期通りに部品が納品されないから。」という事象は、部品ベンダーがサボっているのが原因ではなく、無理な発注、先行情報連絡がないといった自分の問題であったりする。

図7(クリックして拡大)

モデリングの適用実績・成果一覧

筆者が直接携わった実践適用成果を以下に示す。成果内容はもとより、業種を問わないことに着目して欲しい。IoTの設計手法としても推奨する理由の一つである。

表 モデリングの適用実績・成果一覧(クリックして拡大)

さいごに

以上、『産業/企業発展の核として情報産業/IT部門の寄与度を高める』をテーマに掲げ、
第1回では、その必要性の答申。
第2回では、アプローチとしての「ガイドライン」の提案。
第3回では、実践ノウハウ、ケーススタディ、実績。
を紹介した。

残念ながら、特効薬は無く、草の根運動的な提案であるが、全てのノウハウを開示するトレーニングの準備もあるので、多くの質問、意見、相談を願う。

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コメント

筆者紹介

大川原 文明(おおかわら ふみあき)
日本経営システム学会会員・BPMコンサルタント
一般社団法人 日本OMG BPM主席研究員

1988年 日本電信電話(株)入社
2002年 IDSシェアー・ジャパン(株)(現、ソフトウェア・エー・ジー(株))へ転職。以降、BPM(Business Process Management)コンサルタントとして活動する中で、50社以上で、業務改善・改革、システム導入プロジェクトで成果を上げている

2014年 独立

http://www.bpm-navigator.com/

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