富士通メインフレームの本質を見る~バッチ処理の性能評価と改善事例

第1回 性能品質の悪いプログラム

概要

多くのSEはシステムの性能評価が不得手です。そのため、お客様がシステム性能の主導権を握れると、コスト削減・品質向上につながります。バッチ処理の性能改善事例を使い、性能問題の裏にある本質を皆さんと一緒に考えていきます。事例は富士通メインフレーム上のものですが、改善へのプロセスや本質はどのメーカでも共通点があると思います。

目次
はじめに
メインフレーム上での問題点
事例1~夜間バッチジョブの処理時間短縮
図1 夜間CPU使用率の推移
表1 10万件のデータでテストした結果

はじめに

 2007年5月現在、富士通のメインフレーム(GS、PRIMEFORCE)は3,000台以上稼動している。富士通は、昨年GS21の最上位モデルを発表し、2009年度後半以降には次機種も計画している。基幹IAサーバPRIMEQUEST上でメインフレームのOSであるXSPを動作させることも先日発表した(出荷は2008年度上期中)。5年前に比べ、メインフレームにも少し力を戻してきた感がある。 お客様にとって2007~2008年の大イベントは日本版SOX法対応であり、メインフレーム上で構築した基幹システムを改めて見直す時期にきている。

 

メインフレーム上での問題点

メインフレームはよく堅牢・高信頼・高品質といった言葉で表現される。これは、本体系のハードウェアと基本OSのコアの部分ついては正しいが、システム全体から見ると疑問が残る。また、高性能、コストパフォーマンスといった表現をされることは余りない。 性能評価の第一歩はシステムの見える化であり、見える化が進むと以下のような共通の問題点が見えてくる。 

 1.資源の過剰投資
 2.アプリケーションの性能品質の悪化
 3.劣悪なサービスレベルによる運用

これらについては、事例を使って追々紹介していく。

ここで重要なのは、EXCELでグラフを作り、簡単なコメントをつけて、カラー印刷することが性能評価ではないということである。 性能評価のレベルを底上げするには、お客様に情報を公開し、厳しい目で見て頂くことが重要である。弊社は基本的な性能評価プロセス、チューニング方法などをWeb上で公開している(http://www.ibisinc.co.jp/)。

 

事例1~夜間バッチジョブの処理時間短縮

一つ目の事例は、最も基本的なものを紹介する。 午前2時過ぎに終了している夜間バッチジョブを短縮したいという依頼を頂いた。まず、CPU時間とIOPS(I/O per second)をグラフ化すると、CPU使用率が一時間以上100%になっていることがわかった(図1)。

 

図1 夜間CPU使用率の推移

注)棒グラフVM1(仮想システム1)とVM2(仮想システム2)がCPU使用率、折れ線グラフはIOPS~1秒間のIO回数.

■問題点
CPU使用率が100%のとき、I/Oはほとんど発行されずCPUループ状態である。システム管理者は,何の業務なのか正確に把握していなかった.

■原因
SMFからプログラムを特定したところ、UNIXサーバにデータ転送するためにコード変換を行っている処理であることが判明した。ソースを確認したが、製品のサブルーチンを呼んでいたため、詳細は開発者に聞かないとわからなかった。 並行してCOBOLのデバッグオプションをツールで確認したところ、CHECKオプションが付加されていることが判明した。注)CHECKオプション:実行時にテーブルのオーバフローをチェックする機能

■対処
CHECKオプションの有無で性能テストをしたところ表1のような結果になった。

 

表1 10万件のデータでテストした結果

効果が大きかったため、さっそく本番システムに適用することになった。

■成果
 夜間バッチのCPU時間が1時間以上削減(システム全体の30%に相当)
 夜間バッチの終了時間が40分以上短縮

■考察(本質)
 今回は処理時間がうまく短縮したが、文字コード変換処理はメモリアクセスに時間がかかる(CPUを占有する)ためメインフレームでは極力行うべきでない。 PCでできることをメインフレームでやってはいけない。
 問題のプログラムはSEから提供されたもので、お客様自身はロジックやデバッグオプションの有無を把握していなかった。性能品質の悪いプログラムがシステムに侵入し、CPUを食い潰すような事例が最近増加している。
 翌年のCPUリプレースでは現行性能の0.7倍のCPUを導入、コスト削減を実現した。

 

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筆者紹介

有賀 光浩(ありが みつひろ)

株式会社アイビスインターナショナル 代表取締役

1963年生まれ。1985年富士通株式会社入社。1992年~2003年まで社内共通技術部門で国内外のメインフレームの性能コンサルティングを実施、担当したシステム数は1,000を超える。2000年からは大規模SIプロジェクトへの品質コンサルティング部門も立ち上げた。

2004年に株式会社アイビスインターナショナルを設立。富士通メインフレームの性能コンサルティングとIT統制コンサルティングを行っている。

技術情報はhttp://www.ibisinc.co.jp/で公開中。富士通やSI’erからのアクセスが多い。

当サイトには、同名シリーズ「富士通メインフレームの本質を見る~IT全般統制の考え方」を3回、「富士通メインフレームの本質を見る~バッチ処理の性能評価と改善事例から」を6回、「富士通メインフレームの本質を見る~CPUリプレースの考え方」を3回、「富士通メインフレームの本質を見る~性能改善の現場」を7回、「富士通メインフレームの本質を見る~2009年度の最新トッピックス」を3回、「富士通メインフレームの本質を見る~2008年度の最新トピックス」を2回にわたり掲載。

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