システム管理における人材育成

システム管理における人材育成 コンピテンシー・組織状況とリーダーシップ(1)

概要

システム管理における人材育成を、チームリーダーの役割、リーダーシップの視点、組織とコンピテンシーの関係から12回に渡って連載レポート。

今回から数回に分けて、チームリーダーのコンピテンシーについて検討していきたいと思います。
コンピテンシーとは、「高い業績を上げている社員の行動特性」のことです。社内で高い業績を上げている社員の持っている専門技術やノウハウ、基礎能力などを細かく観察し、何が「仕事のできる社員」にしているかを明らかにしたものです。
このコンピテンシーを行動基準や評価基準として活用することで、社員全体の行動の質をレベルアップしていくのが目的です。
従来の評価基準は、一部の人事の専門家が期待する社員像を描き、どの会社でも望まれる共通項目的な「協調性」「積極性」「規律性」「責任性」などを用いていました。これに対してコンピテンシーは、自社の優秀人材に対してその特徴を明確にするところから始まります。ですから会社によりコンピテンシーの内容は異なります。また、部門や専門性の違いからもコピテンシーの内容は異なってきます。時間軸で見ても戦略や仕事の進め方が変わってくるとコンピテンシーも変わってくることになります。
もともとは、アメリカ1970年代、ハーバード大の心理学者マクレランド教授らが外交官の業績格差の原因を調査。高い業績を上げる人たちには、共通の欲求動機や行動特性があることを見出し、コンピテンシーと呼んだことが始まりです。マクレランド教授らはTATと呼ばれる診断(絵を見て物語りを話してもらう方法)により、被験者の基本的欲求を調べました。高い業績を上げる人たちには、共通した欲求のパターンが見られました。人に影響力を持ちたいというパワー欲求が高く、目標や業績を達成しようという欲求もパワー欲求ほどではないが高い。そして人々と親密な関係を持ちたいという欲求は、高くありませんでした。この3つの他にも自分の欲求を抑えなければならない必要性を感じとることが多い、つまり自己統制が高いとか、物事の見方、関心が個人でなく組織中心であり、働くことが大好きで、態度・行動は自己犠牲的で、強く正義、公正を感じるなどの考え方、態度の特徴が見られました。
このように欲求動機だけでなく思考様式、態度、仕事上の特定のスキル、技術的専門的な知識、対人感受性など一般的な能力などを含めた幅広い概念としてコンピテンシーが定義され、発展してきています。
コンピテンシーの考え方は、大勢で担当している仕事で、個人による業績の差が大きく、その理由がはっきりしないとき非常に有効です。高業績者に対してインタビューや観察を通して、自社のその仕事についてのコンピテンシーモデルを作ることになります。また、新しい戦略を実施し、仕事内容が大きく変わるとき、その内容を吟味し、ベンチマークにより他社のコンピテンシーを参考にして、今後必要とされるスキルや行動(コンピテンシー)を明確にしていくこともできます。もちろんこのときは、経過を見ながら高業績者に対して検証していく必要はあります。
高業績者とは、その集団の中で上位5%以内に入る人たちのことです。この人たちが、平均的業績を上げる人たちに比べどのくらい高い業績を上げるかは、仕事内容により異なります。幾つかの調査によるとルーチンな業務では、15%ぐらい差が見られる。思考をともなう設計などでは、数倍(7~800%)の差が見られる。トラブルや災害時など緊急時対応では数倍から数十倍の差が見られる。といわれております。業績尺度の定義が難しく、荒っぽい数字ですが、イメージはつかめていただけると思います。システム管理では、ルーチンな状況では、15%ぐらいの差ではありますが、緊急時対応では、まさに一騎当千と言える差が出るということです。
 
アメリカでは人材採用に活用する企業が多く、日本では能力開発に多く用いられる傾向はあるようです。採用では、応募受験者に過去どのような成功体験があるか、そしてそのときどのように考え、行動したかなどをインタビューし、会社として定めたコンピテンシーをどの程度持ち、発揮しているかを評定することになります。質問紙法によるテストも各社ごと自社のコンピテンシーに合わせて作成し、補助的に使用している企業もあります。特に社会人としての経験のある人に対しては、かなり明確にその人のコンピテンシーは把握できます。外資系の日本企業でこの方法を採用し、有効な人事戦略を展開している会社もあります。ただ日本企業の場合、定期採用では、入社後の担当が採用時には決まっていないことが多く、コンピテンシーが絞り込めないので多少やりにくい面はあるかも知れません。しかし多くの職種に共通するコンピテンシーがあれば、それだけを明確に評価することは、非常に有効でしょう。例えば、会社全体のビジョンとして社会への貢献をあげている会社であれば、どの職種のコンピテンシーにも自己犠牲・他者への貢献行動が共通してあがってきます。採用面接では、色々な活動の場面で自己犠牲的な行動、人への貢献的な行動や考え方をしてきた人かどうかを探り出せばよいことになります。またHPなどで自社のコンピテンシーを公表し、予め受験者に、自分がこれらのコンピテンシーにかなっているか、もしかなっていなければ受験しないように知らせることもできます。もっと他でその人の特徴を発揮していただいた方が、その人のためにも、会社のためにもなるという考え方です。
コンピテンシーは、プロジェクトのチーム編成にも利用されています。まず人事データベースに社員のそれぞれのコンピテンシー評点を入れておくことが前提になりますが。あるプロジェクトの初期の計画段階で、どのような仕事内容になるかを検討し、それを遂行するためにはどのコンピテンシーが有効かを明確にします。そのコンピテンシーの評点の高い人を人事データベースからリストアップし、チーム編成の参考にするという活用が考えられます。同様に人事異動やキャリア・マネジメントの有効で強力なツールとして活用しています。
以上は、コンピテンシーの活用方法の中でも、コンピテンシーは変わりにくいという捉え方による活用を紹介しましたが、コンピテンシーは、性格などとは異なり、考え方、態度など変わる側面も持っています。そこでコンピテンシーの考え方、コンピテンシーの内容に基づいて社員の育成、教育を考えることが必要になってきます。
次回は、具体的にどのようなコンピテンシーが各社で使われているかを紹介し、そのコンピテンシーを向上させていく方策を検討して行きたいと思います。

連載一覧

コメント

筆者紹介

株式会社 ビジネスコンサルタント
総研部長 岩澤誠

バックナンバー