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ITと経営 第1回 差し迫った経営者意識の大転換
2007年06月13日 10:42

  いつの時代でも、「歴史の岐路」とか、「歴史の大転換」といった形容詞が登場するもので、私たちはこの言葉にたいして不感症になっている。しかし眼前の経営環境はITの技術進化と法制度の拡充に合わせて、否応なく大転換を余儀なくされている。かつて蒸気機関の登場とともに汽車が実用化されて、それ以前の馬車が主要輸送手段としての地位を失ったように、新技術の実用化や法整備は有無をいわせず旧技術の退場と同時に、経営意識も大転換を迫ってくる。しかしそれが現実化したときに初めて、かつての馬車屋と同様に、事態の深刻さに慌てふためくのも事実であって、現在がちょうど馬車屋と同じ運命を辿るかいなかの「岐路」にあるように思う。

その第一関門は、2008年度から上場企業に適用される企業改革法による「内部統制システム」の構築である。これは続発する企業の「不正経理事件」にたいして企業に内部統制を厳格化させて、事件の発生を未然に防ぎ株式市場の信頼失墜を防ぎ、株主の利益を守るという主旨に基づいている。
「内部統制システム」にはコンピュウータ・システムが中核になるが、その機能に見合ったシステムを導入すれば、それでことがすむ問題ではない。まず経営トップの意識変革そのものが問われる。同時に社内体制をどのように整備するかが最大の問題であって、システム導入はその後の話になるわけだ。ところが現実は逆であって、システムを入れればそれで「内部統制システム」は完了したと安心してしまったのでは、かつてのERP(統合業務パッケージソフト)導入がその機能を十分に果たさず、「宝の持ち腐れ」となったことの二の舞である。 ちなみに、内部統制報告書の未提出や、虚偽記載にたいしては代表取締や個人に5年以下の懲役・5百万円以下の罰金、このほか法人自体には5億円以下の罰金が科せられることになった。法に背く代償はこのように高いものがある。

次に第二関門は、2010年からの「ユビキタス社会」入りである。ユビキタスとは、周知のように「いつでも、どこでも、だれでも、ネットワークに接続してコミュニケーションできる社会」の到来である。この夢の社会を仲介するものはICタグ(正式にはRFID)の経済的実用化であるが、最大のネックとされた価格も日本メーカーの量産化によって1個10円見当まで下がり、世界で初めて日本が「ユビキタス社会」を確実なものにする情勢にある。
世界初の「ユビキタス社会」とはどのような社会なのか。これまでのように消費者を「マス」としてではなく「個」としてとらえる社会である。現在よりもさらに膨大化するデータを、どのようにして意味ある「情報」や「知識」に転換させて企業戦略に直結させるのか、が問われてくる。従来のように「部分最適」によってその場その場をしのいできたシステム作りから、企業戦略全体を睨んだ「全体最適」の立場から、しかも企業トップが先頭に立った全社を巻きこんだIT向けの企業風土作りが基盤になったシステム作りが不可欠になっている。

目前に迫ったこれら二つの関門を日本企業は、どのようにして乗り切るのか。その具体策はあるのか2005年末で専任のCIO(情報システム担当統括役員)をおいている企業は2%、そのCIOが社長クラスであるのは3.5%(平成18年版『情報通信白書』)である。社長クラスが率先して企業戦略にITを位置づけているのは、このようにお寒い限りである。これが日本の実態だ。

最近、産業界では「見える化」運動が注目されているが、これまで「財務」の陰に隠れて目につきにくかった「非財務」であるインタンジブルズ(無形資産群)を、誰の目にもはっきりと気づかせる「見える化」の重要性が強調されている結果である。インタンジブルズの内容は、次のようなものである。1.データに基づく管理能力の高さ、2.トップダウンによる企業戦略の徹底化、さらには、3.顧客を大切にする企業風土等々である。最近の認識では、有形資産よりもこの無形資産の方がはるかに企業の長期戦略にとって有効であるとの実証研究も出始めているほどである。世の中は財務データを支える非財務の重要性に気づき始めてきたといえる。
最高益更新を長期にわたって続けている企業には、必ず他社に秀でた無形資産群が存在しているはずである。企業成長の主因は「外的条件」よりも無形資産群のように、その企業独自の「内的条件」によって同業他社よりも高い成長を続けていることは確実である。技術開発力も広告戦略も、またシステム能力や社長クラスのCIOの存在も、無形資産群に含まれている。株主資本利益率や総資本利益率の高さは、こうした無形資産群によって支えられているのである。

日本の経営者が一部の先覚者を除けば、ITに関して表立った関与をしていないことは疑いを入れない。そして、IT投資を単純に情報の大量処理による、「コスト削減」手段としてのみ考えているから、社長クラスがCIOを兼ねることはレアケースとなるのであろう。IT投資が経営戦略の根幹に関わるという認識が浸透しにくいのは、多分、コンピュータの歴史の変化を十二分に体得していないことによるのかもしれない。

第二次世界大戦終了後、コンピュータは原子力やTVと並んで世界経済の上昇局面を牽引してきたが、そのコンピュウータはメインフレームとしてデータの集中処理に威力を示してコスト削減効果を発揮してきた。従って、コンピュータといえばまず、このメインフレームが頭に浮かんでくるのは致し方ない。
しかしバブル経済崩壊過程で、1990年代の初期、メインフレームに代わってパソコン(PC)が、後期にはWeb(インターネット)がPCを繋いで他社との生産関係を密接なものにさせた。いわゆるSCM(供給連鎖管理)の実現である。生産から最終需要にいたる商品供給の流れを「全体最適」のもとに管理するシステムである。この段階では最終需要側が決定権を握る形になるので、供給連鎖においてのいわゆる「上流」や「中流」は受け身になって、「下流」の最終需要側の販売を阻害しないことが最大限に要請されている。
結局、PCでは情報活用が、Webでは情報交換が主要な仕事になり、メインフレームの情報処理から見れば、次第にコスト的な財務評価がしにくい側面が増えてきたといえよう。短期的な財務評価に偏重する経営トップは、経営戦略の根幹に結びつくIT戦略から距離を置くことになった面も否定しがたい。

SCMも立派なネットワークであるが、冒頭に指摘したように、「内部統制システム」や「ユビキタス社会」は目前である。こうなるとSCMに見られるような「他社任せ」のITシステムでは対応できなくなってくる。要するに、自前の(といっても標準化された)ITシステムを社長自らが陣頭指揮をして構築しなければ、激烈な企業間競争に打ち勝てない経営環境になった。そのことを最後にもう一度強調したいと思う。

次回以降の連載のタイトルは次のような予定である。

2回目 大量生産から多品種少量生産へ
3回目 アメリカ企業はなぜ情報化戦略に強いのか
4回目 日本企業は横並び主義の「様子見」戦略
5回目 ここ2、3年で経営格差は一挙に開く
6回目 生産性向上が日本経済の将来を左右する 

「かつまた経済・経営道場」

いささかいかめしい名前をつけてしまい驚かれたことと思います。私の過去のコースは30年間が経済ジャーナリスト、16年間は学究生活という配分であり、「道場」といった名前も少しはお許しいただけるかと思い、付けてみました。「経済と経営」は車の両輪であり、どちらかを欠いても満足な「洞察」は得られないと思います。私は、「技術・経営・経済」を一体のものとして捉えております。実はこの視点が、20世紀最大の経済学者であったシュンペーター教授の我々に残してくれた遺産と考えます。同好の士とともに研究できれば幸いに存じます。ご連絡をいただければと思います。
コラム CIOへのメッセージ -アーカイブ-
ITと経営

今後の企業を取り巻く環境変化のなかで、労働力不足が大きな問題になっている。昨今の大卒を巡る就職争奪戦は、かつての高度経済成長時代を彷彿とさせるものがある。その状況は、これからますます激化して行くが、日本経済や企業経営にとってこれを切り抜ける方法は、ただ一つ、IT投資(IT資本)を軸とした生産性向上によるしかない。これさえ実現できれば、「人口減社会」は乗り切れる。その具体的処方箋をここに展開する。

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筆者紹介

勝又壽良(かつまた ひさよし)
1961年 横浜市立大学商学部卒。同年、東洋経済新報社編集局入社。『週刊東洋経済』編集長、取締役編集局長をへて、1991年 東洋経済新報社主幹にて同社を退社。同年、東海大学教養学部教授、教養学部長をへて現在にいたる。

著書(単独執筆のみ)
『日本経済バブルの逆襲』(1992)、『「含み益立国」日本の終焉』(1993)、『日本企業の破壊的創造』(1994)、『戦後50年の日本経済』(1995)、『大企業体制の興亡』(1996)、『メインバンク制の歴史的生成過程と戦後日本の企業成長』(2003)

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