元気なこころを維持するためのメンタルヘルス対策
第5回 男性のメンタルヘルス・女性のメンタルヘルス
メンタル不調になる原因は人それぞれですが、うつ病(女性の方が発症率が高い)など男性と女性で発症率が異なる病気もあり、メンタルヘルスの維持向上のため性別要因は無視できない場合があります。今回は男性と女性、それぞれのメンタルヘルス対策について考えてみましょう。
1.Eさんのケース
Eさん(38歳・男性)は、ときどき急に元気がなくなる部下への対応で悩んでいました。その部下は29歳の女性でしたが、普段は人当たりもよく、仕事にも前向きに取り組むものの、数週間ごとに波があり急に元気がなくなることがありました。元気がなくなる時期になると、気力や集中力が落ち、あまり笑顔も見られなくなるのでした。また、仕事のことで少し厳しく指導をすることがあっても、元気なときは前向きに頑張ろうとするのですが、元気がない時はやんわり言ってもさらに元気がなくなり、落ち込むこともありました。
こころの病気か、それとも何か悩みを抱えているのか、判断に悩んだEさんは、あるときメンタルヘルス関連の仕事をしている臨床心理士の友人に相談してみることにしました。
するとその友人は、「その人に直接会っているわけではないし、あくまで可能性の1つで、他にも理由はあるかもしれないので、断定はできないけれど」と断ったうえで、次のような対応法をアドバイスしました。
・およそ4週間ごとの周期で様子の変化がみられるのなら、女性ホルモンの
影響も考えられるかもしれない。
・本人が希望するなら一度メンタルクリニックの受診を勧めても良いと思う
が、抵抗感があるようなら臨床心理士などによるカウンセリングや、女性
外来などの受診を勧めた方があまり抵抗を感じなくてすむかもしれない。
・Eさんから直接受診を勧めるのではなく、その部下の先輩にあたる他の女
性社員を通じて勧めても良いだろう。
そこでEさんは早速、他の女性社員を通じてカウンセリングや女性外来の受診を勧めてみました。すると何か月もしないうちに波が目立たなくなり、調子を崩す機会も少なくなりました。本人と話をした女性社員からの報告によると、「女性外来を受診し、女性ホルモンのバランスを整える漢方薬を処方されたところ、大きく落ち込むこともなくなってきた」という話でした。
2.女性のメンタルヘルスと男性のメンタルヘルス
Eさんの部下の例のように、女性ホルモンの影響でうつ症状がみられる人は珍しくないようです。女性ホルモンのバランスが大きく変わる、出産後や閉経時に鬱病の発症率が高くなるのは、その一例と言えるでしょう。(この時期に深刻な悩みや大きなストレスを抱え、家族のサポートを得られないなど悪条件が重なると、うつ病など心の病気になるリスクはさらに高くなるでしょう)もちろん、女性ホルモンだけが唯一の原因ではなく、身体の疲労やストレス・悩みなど、さまざまな要因が複雑に影響しあっているのですが、女性ホルモンのバランスを整える治療によって症状が改善される人も少なくないのです。
男性の場合も、更年期にうつ症状や不安症状がみられる人がいますが、女性ほど症状は目立たないと言われています。しかし、中高年男性は自殺率が最も高い年代と言われているとおり、経済的・社会的な負担が一番重くなる時期でもあります。ストレスをためたまま身体の疲労が重なり、気がつかないうちに鬱病になって希死念慮が高まるとも限りませんから、無理のしすぎは禁物です。
人はストレスを感じると、脳内の化学物質であるアドレナリンやノルアドレナリン、コルチゾールなどのバランスが変化し、「戦うか逃げるか」どちらかにすぐ対応できるよう身体が反応するとされていますが、男性の方がこの傾向が強いとされています。逆に女性の場合は、ストレスを感じると女性の仲間に助けを求めようとする傾向が強いそうです。実際に助けを求めない場合でも、同性の家族や友人と話すことで安心感を得ようとしたり、絆を深めようとするのだそうです。
このように男性の方が一人でストレスに立ち向かおうとする傾向があるため、高血圧やアルコール依存症などストレス関連の病気になるリスクも高くなると言われています。逆に、女性ホルモンの1つであるエストロゲンは、神経細胞に損傷を与えるストレス要因を中和する性質があるとされています。
3.メンタルヘルス対策について
このように、個人差はありますが男性・女性それぞれに特徴がありますので、性別要因を考慮することも、心の健康の維持向上に役立つと言えるでしょう。例えば男性の場合は、「ストレスがたまった」と感じたらアルコールを控え、きちんと睡眠をとったり、リラクゼーションを心がけることが大事でしょう。また女性の場合は、身体の調子が悪い時は無理をせず、気心の知れた仲間と充分におしゃべりすることがストレス発散に有益でしょう。
どちらの場合でも、身体が発するメッセージに素直に耳を傾けることがポイントと言えるかもしれません。
参考文献:
・マリアン・レガト/下村満子監訳「すぐ忘れる男 決して忘れない女」
朝日新聞社 2007.
・Louann Brizendine, M.D. " The Female Brain" Broadwaybooks 2006.
・Louann Brizendine, M.D. " The Male Brain" Broadwaybooks 2010.
(臨床心理士・社会保険労務士 涌井美和子)